━━━━━━━━━━━━━━ ⑩ 廃用身 ━━━━━━━━━━━━━━ 医師でもある久坂部羊の小説を映画化した衝撃作。麻痺などで回復の見込みのない手足を「廃用身」と呼び、それを切断することで患者は痛みから解放され、家族やヘルパーは介護の負担から解放される——そんな画期的な医療「Aケア」が、ある町の病院で行われていた。3人に1人が高齢者になる時代、この案はとても現実的に思える。しかし同時に、必ずしも必要ではないのに手足を切断するという、説明のつかない恐怖もある。人間の摂理とは何かを問う、2026年最も誰かと語りたくなる一本。 2026年製作/日本/配給:ハピネットファントム・スタジオ ━━━━━━━━━━━━━━ ⑨ ブゴニア ━━━━━━━━━━━━━━ 『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス監督最新作。「あなたは地球を破壊しにきた宇宙人だ」と信じ込んだ男が、いとこと共謀し、カリスマ女性CEOを誘拐・監禁する。陰謀論に取り憑かれた男と、理知的なCEOの噛み合わない対話が、不穏な緊張とともに進んでいく。最初から最後まで一切気が抜けない、不条理と狂気の一本。 2025年製作/118分/アメリカ・イギリス・韓国合作/原題:Bugonia/配給:サーチライト・ピクチャーズ ━━━━━━━━━━━━━━ ⑧ 万事快調〈オール・グリーンズ〉 ━━━━━━━━━━━━━━ 閉塞した地方の工業高校に通う女子高生たちが、ふとしたきっかけで◯物を手に入れる。一攫千金を目指し、ぼっち仲間と校舎の屋上で栽培計画をスタート。シリアスな題材でありながら、サブカル感と絶妙なコミカルさが同居し、やっていることは完全にアウトなのに、なぜかずっと応援してしまう。地方の鬱屈した空気と、若さゆえの無敵感が同居した青春群像劇。 2025年製作/日本/配給:SPOTTED PRODUCTIONS ━━━━━━━━━━━━━━ ⑦ ナースコール ━━━━━━━━━━━━━━ 同僚が病欠し、シフトに入るのは自分とインターン生だけ。人手が足りない時に限ってトラブルが連鎖する——そんな「あるある」が、命を預かる病院という現場では済まされない。患者にとっては自分だけの大切な体でも、看護師にとっては全員が等しく大切な命。誰ひとり無碍にできないからこそ、タスクは無限に湧いてくる。お茶出し、忘れ物チェックといった些事から、電話応対、来客対応、患者の介護、調合、投薬、そして緊急のナースコールまで。ドラマチックな展開はないのに、息つく間もない医療現場のリアルから目が離せない。TOKYO MERのようなヒーロー的医療ドラマとは対照的に、より現場の空気感に迫ったリアリティ溢れる作品。主演の手際の良い演技が光る。 2026年製作/日本/配給:ファントム・フィルム ━━━━━━━━━━━━━━ ⑥ シラート ━━━━━━━━━━━━━━ 巨匠ペドロ・アルモドバルが製作に参加し、ゴヤ賞6冠・アカデミー賞2部門ノミネートを果たしたスリラー。モロッコの砂漠、失踪した娘を探す父と息子が、レイブパーティーを追って次の会場へと車を走らせる。中盤までは淡々としたロードムービーだが、ある出来事を境に物語の不条理レベルが一気に跳ね上がる。「シラート」とはイスラム教で◯後に魂が渡るとされる橋のこと。天国と地獄の狭間にある、髪の毛より細いその橋から落ちれば地獄に堕ちる。娘探しはただの入り口にすぎず、これは生と◯の狭間を歩きながら、生きながらにして地獄を体感する男の物語。第三次世界大戦前夜の緊張の中、一歩踏み外せば全てが終わる——逃げ場のない極限を体感する一本。 2025年製作/115分/スペイン・フランス合作/原題:Sirât/配給:ハピネットファントム・スタジオ ━━━━━━━━━━━━━━ ⑤ オールド・オーク ━━━━━━━━━━━━━━ 『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督が、自身最後の作品として撮り上げた人間ドラマ。かつて炭鉱で栄えたイギリス北東部の街に、シリア難民が移住してくる。快く手を差し伸べる者もいれば、激しく反発する者もいる。反発する地元民は一見悪者に見えるが、彼らもまた貧困に喘いでいる。難民を嫌う人々を単純な差別主義者として描かず、「争いはピラミッドの下の方でしか起きない」という現実を静かに突きつける。パブ「オールド・オーク」を営むTJと、難民の女性ヤラの交流を軸に、分断の時代に必要な連帯とは何かを問いかける。労働者のリアルを生涯描き続けた巨匠の、優しさに満ちた集大成。 2023年製作/113分/G/イギリス・フランス・ベルギー合作/原題:The Old Oak/配給:ロングライド ━━━━━━━━━━━━━━ ④ サンキュー、チャック ━━━━━━━━━━━━━━ 「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」のスティーヴン・キング原作のヒューマンファンタジー。60もの災害が地球を襲い、ネットも繋がらず、世界の終わりが近づいていた。そんな中、街じゅうを謎の広告が埋め尽くす——「ありがとう、チャック」。有名人でもないこの人物は誰なのか。観終わった直後は「結局どういうこと?」と戸惑うが、頭の中で整理し、その真意に気づいた瞬間、静かな感動が押し寄せる。生きる意味とは何か。富でも名声でもなく、どれだけ宝物みたいな時間を過ごし、自分らしく生きられたか——そんな問いを優しく手渡してくれる。出演はロキ役のトム・ヒドルストン、ルーク・スカイウォーカー役のマーク・ハミルほか。 2024年製作/110分/アメリカ/原題:The Life of Chuck/配給:TOHO NEXT ━━━━━━━━━━━━━━ ③ ウォーフェア 戦地最前線 ━━━━━━━━━━━━━━ イラク戦争での実体験を、元特殊部隊員の共同監督が極限まで再現した戦争映画。米軍が監視のために籠っていた一軒の民家。周囲は武装した敵に囲まれ、煙幕を使って撤退を試みた矢先、仕掛けられた◯弾が炸裂する。耳鳴りの中で目を覚ませば、即◯した仲間、かろうじて息のある負傷兵。止まらない出血、応じない応援要請、どこにいるかもわからない敵からの◯撃。分かりやすいオチもヒーローもいない、逃げ場のない戦地最前線のリアルだけが、ただ続いていく。役者陣は撮影前に3週間、特殊部隊員と同じ過酷な訓練を受けたという。特定の敵を描かず、イラクの一般市民の生活にも目を向ける眼差しが胸を打つ。映画史上、最も本物に近い◯闘。爆音で体感してほしい一本。 2025年製作/95分/R15+/アメリカ/原題:Warfare/配給:ハピネットファントム・スタジオ ━━━━━━━━━━━━━━ ② 急に具合が悪くなる ━━━━━━━━━━━━━━ 『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督最新作。哲学者・宮野真生子と医療人類学者・磯野真穂による実話に基づく往復書簡エッセイを原作に、全編フランスロケ・フランス語で描かれるヒューマンドラマ。パリ郊外の介護施設で施設長を務めるマリー=ルーは、理想と現実の狭間で悩んでいた。そんなある日、がん闘病中も演劇に情熱を注ぐ日本人女性・真理と出会う。名前の響きが同じという偶然をきっかけに二人の交流が始まるが、あるとき真理は急に具合が悪くなる。病の進行とともに二人の関係は深まり、互いの魂を通わせ合っていく。真理を演じるのは日本人初のカンヌ国際映画祭主演女優賞に輝いたTAOこと岡本多緒。マリー=ルー役のヴィルジニー・エフィラも同じく主演女優賞を受賞。第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。 2026年製作/196分/フランス・日本・ドイツ・ベルギー合作/配給:ビターズ・エンド ━━━━━━━━━━━━━━ ① センチメンタル・バリュー ━━━━━━━━━━━━━━ 『わたしは最悪。』のヨアキム・トリアー監督が、愛憎入り混じる「親子」というしがらみを描いた家族ドラマ。オスロで俳優として活躍するノーラと、家庭を築き穏やかに暮らす妹アグネス。ある日、幼い頃に家族を捨てて音信不通だった映画監督の父グスタヴが現れ、15年ぶりの新作となる自伝的映画の主演をノーラに打診する。父への怒りと失望からノーラは拒絶するが、代役にアメリカの人気若手俳優レイチェルが決まり、さらに撮影場所がかつて家族で暮らした実家だと知り、抑えていた感情が再びこみ上げていく。壁にヒビが入っても壊れなければ住み続けられる家のように、こわれた親子もまた関係を手放せない。傷つけられた者が、別の場所では誰かを傷つけてもいる——人間の業と赦しを、繊細な感情の機微とともに描き出した傑作。主演レナーテ・レインスヴェ、共演ステラン・スカルスガルド、インガ・イブスドッテル・リッレオース、エル・ファニング。第78回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞、アカデミー賞国際長編映画賞受賞。 2025年製作/133分/G/ノルウェーほか/配給:NOROSHI=ギャガ
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