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空白代行

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彼氏が退学になった_ いじめをしていたらしい_ 電話にも出てくれなくて、 夏休みに入る前、 ようやく2週間ぶりにラインが来た_ 『おばあちゃんの家に引っ越すことになった』 私は『借りていた本を返したい』と、駅まで見送りに行った_ 彼氏は、エナメルバッグを肩にかけて、駅前に立っていた_ 「中で待っててよかったのに」 私が駆け寄ると、彼氏は首の後ろをタオルで拭いた_ 「これ、使っていいよ」 シーブリーズを渡すと、彼氏はすこしだけ手のひらに出した_ 石鹸の匂いがして、私も手首にシーブリーズを付けた_ 「おばあちゃん家までどのくらい?」 「720円」 「じゃあ、そこまで送る」 私は切符を買って、彼氏と改札を抜けた_ 電車がちょうど来て、そのまま乗り込んだ_ 2両しかない電車には、私たちしか乗っていなかった_ 「学校、サボっちゃった」 私が椅子に座ると、彼氏はあいだをすこしだけあけて、ゆっくりと腰を下ろした_ 彼氏はずっと、窓の外を見ていた_ よくふたりで歩いた田んぼの道が、白昼の空を照り返していた_ 途中、急行が通り過ぎるから、電車が4分間停まった_ 「飲み物、買って来れるかな?」 私は、駅のホームの自販機を指差した_ 「たぶん」 彼氏は、タオルを口もとに当てて言った_ 「行ってくるから見てて」 私は、電車を降りた_ 自販機まで走って、ポケットから小銭を出した_ ボタンを押すと、急行電車が通り過ぎた_ 後ろを振り返ると、ガラス越しに彼氏と目が合った_ もうすぐで、1ヶ月記念日だった_ 彼氏は、私の元カレと同じクラスだった_ 告発したのは元カレで、彼氏にスマホを田んぼに投げられたらしい_ 『間も無く発車します』 アナウンスが響いて、私は急いでお釣りを取った_ 扉が閉まりそうになって、私は慌てて電車に乗った_ 前髪を押さえたら、ポカリが床に落ちた_ 拾おうとしたら、2本目も落ちて、 ゴロゴロと、彼氏の足もとで止まった_ 「あ」 手を伸ばすと、彼氏がポカリを拾った_ 顔を上げて「あぶなかったね」と、私の目を見て笑った_ 私は前髪を整えながら「置いてかれると思った」と、彼氏のとなりに座った_ 肩が当たって、彼氏が「飲んでいい?」と、ポカリを揺らした_ 「うん、いいよ」 パキリと蓋の開く音がして、彼氏がペットボトル差し出した_ 「はい」 「ありがと」 私は受け取って、ひとくち飲んだ_ 彼氏は、ペットボトルを口に当てたまま、窓の外を見つめていた_ 傾けたポカリが、きらきらと夏の日差しを吸い込んでいた_ 彼氏と付き合ってすぐ、私は高熱を出して学校を休んだ_ 両親は仕事に向かって、私はカーテンを閉めたまま、ベッドの上でうなされていた_ クーラーの音を聞きながら、同じ夢を繰り返しみていた_ 遠くで犬の鳴き声がして、目を覚ますと、彼氏がベッドのそばでスイカゲームをしていた_ 「あ、うるさかった?」 愉快な音楽を流しながら、彼氏はポカリを私のおでこに当てた_ 「なんでいるの?」 私がそう聞くと、 「恋人だからね」と、 笑いながら、ポカリを開けてくれた_ 電車が揺れて、窓の外が真っ暗になった_ トンネルを抜けると、蝉の鳴き声が車内を駆け抜けた_ ほんとは、聞いておきたかった_ 元カレのスマホに、 私の動画が残っていたのか_ 晒されたくない私のすべてを、 田んぼに沈めてくれたのか_ それを見て、 なにを思ったのか_ 彼氏はずっと、 窓の外だけを見ていた_ 「つぎで降りる」 山に囲まれた無人駅で、 彼氏は電車を降りた_ 私は駅のホームで、 本を出した_ 改札の奥に、 白い車が停まっていた_ 窓越しに、おばあちゃんと目が合って、 私は軽く頭を下げた_ 「じゃあ、帰るね」 先に私が、手を振った_ 「これ」 彼氏は、1000円札を2枚出した_ 「いいよ、私が勝手に」 「ううん」 彼氏が、私の手を両手で握った_ 「じゃあ、気をつけて」 彼氏の手が離れた_ 顔を上げると、 彼氏は歩き出していた_ 私は、かかとを上げた_ 改札を抜けると、 彼氏が振り返った_ 目が合って、 「片道切符だった」と、私は笑った_ 「そっか」 彼氏は、すこしだけ口角を上げた_ 「じゃあ、元気でね」 「うん、そっちも」 私が手を振ると、彼氏は車のドアを開けた_ 見えなくなるまで、私は手を振り続けた_ スマホを開いて、 『また、来てもいいかな』 ラインを送った_ ひぐらしが鳴き出して、 空が燃えるように赤かった_ 既読はついたけど、 返事はなかった_ 初めて繋いだ手は、 顔を塞ぎたくなるくらい、 まだずっと汗で滲んでいた_                                  

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川で溺れた男子高校生が、元カレだと気づいたのは、先輩と水族館に向かってる途中だった_ クラスのグループラインには、『病院に運ばれた』と書かれてた_ 「だいじょうぶ? これ、首に当てときな」 先輩が、駅のホームでポカリを買って来た_ 「ありがとうございます……」 私は、ベンチにスマホを置いた_ 「今日、36度らしいからね」 「はい、ちょっと暑さにやられました……」 私は、ペットボトルを首に当てた_ 「なんか、鳴ってるよ?」 スマホが、ベンチの上で震えていた_ 「あ、たぶん友達です」 私は、スマホをカバンに入れた_ 「出なくていいの?」 「はい、大丈夫です」 「ちょっと、休んでから乗ろっか」 先輩は、電車の時刻を確認した_ 「はい、なんかすみません」 「いいよいいよ、こんな暑いってわかってたら、待ち合わせは夕方にするべきだったね、ごめんね」 「いいえ、水族館楽しみだったので」 頭の中は、 元カレのことでいっぱいだった_ あれだけ先生が、 『川では遊ぶな』って言ってたのに、 「どうして……」 つい、口に出てしまった_ 「ん?」 先輩と、目が合った_ 「やっぱり、体調悪い?」 「いいえ」 「無理しないでね?」 「はい、大丈夫です」 せっかくの初デート、 元カレのことは考えたくなかったのに、 2時間かけたメイクが、 汗で落ちそうだった_ 「緊張してる?」 先輩が、顔を近づけて来た_ 「はい、ちょっとお手洗い行って来ます」 私は立ち上がった_ 「もし、キツくなったらラインして?」 「はい、すぐ戻ります」 私は、お手洗いに入ってすぐスマホを開いた_ 元カレは、学校の近くの病院に運ばれていた_ 何人か向かっていて、意識がまだ戻っていないと話していた_ 駅のホームに戻ると、先輩が立って待っていた_ 「もう大丈夫です」 「あ、いますぐ電車乗れる?」 「は、はい」 「じゃあ、こっち」 先輩に手首を掴まれて、停まっていた電車に乗り込んだ_ 「これ、反対じゃ……」 「うん、病院まで送る」 「え……」 「学校の近くの病院だよね?」 「え」 「隠さなくていいよ、俺のことは気にしないで」 「待ってください」 「大丈夫、いまは元カレのことだけ考えて」 先輩は、窓の外に視線を逸らした_ 「私……」 「ううん、俺が誘うの早すぎたんだよ」 「そんなこと……」 「いや、ふたりが別れたとき、俺はすぐに連絡してしまった」 先輩は、ゆっくりと吊り革を掴んだ_ 「いまなら簡単に落とせるかもって、卑怯なことした」 電車が揺れて、先輩は下を向いた_ 「たぶん、俺が邪魔しちゃってた」 「そんなこと」 「こんな形で言いたくなかったけど、まだふたりは戻れるよ」 先輩が、後ろに下がった_ 「喧嘩して別れたって言ってたけど、いまもふたりは好き同士だよ」 カバンの中で、スマホがまた震えた_ 「すぐに仲直りできたはずなのに、俺が割り込んだからさ」 先輩は、顔を上げた_ 「俺がいなければきっと、仲直りできるよ」 「でも……」 「彼は助かるし、まだ好きだと思う」 私が首を振ると、先輩が私の肩に触れた_ 「俺、見たからさ、イルカのネックレス、彼が探してるとこ」 イルカのネックレスは、元カレと喧嘩になった原因だった_ ふたりで花火を見に行ったとき、私はネックレスをなくしてしまった_ 汗で汚れたくなかったから、浴衣の袖に入れていたのに、帰りに付けようとしたらなくなっていた_ 「いつも俺が帰る橋の上で、彼がスマホのライトを照らして、しゃがみ込んでるところ見かけて」 先輩は、遠くを見つめて言った_ 「手伝うよって声をかけたら、ふたりの写真を見せられて、これを探してますって」 ネックレスをなくしたとき、彼は1度も口を聞いてくれなかった_ 「私、やっぱり……」 「うん、彼とちゃんと話して、仲直りして来な」 先輩が、私の肩を撫でた_ 「駅からは、ひとりで行ける?」 顔を上げると、先輩が目を細めた_ 「はい……」 「じゃあ、またふたりで写真を撮って、俺に見せてよ」 先輩が微笑むと、電車の扉が開いた_ 「気をつけて」 「はい……」 私は、ゆっくりと電車を降りた_ 扉の閉まる音がして、振り返ると、 先輩が手を振っていた_ 電車が動き出して、一瞬だけ、 両手で顔を塞ぐ先輩が見えた_ 私はまぶたを擦って、急いで改札を抜けた_ クラスの子が迎えに来てくれて、 走って病院に向かった_ 病室には、クラスメイトと先生が来ていた_ 「これ……」 テーブルの上には、ネックレスが置かれていた_ 「救助されたとき、手に握りしめてたって……」 イルカのネックレスは、泥で汚れていた_ 私は、彼の手を握った_ 「ごめん……」 何度も、 「ごめん……」 彼の手に、ほほを当てた_ 「え」 先生が、声を上げた_ 「わかるか、聞こえるか」 顔を上げると、彼の目がすこしだけ動いた_ 「ねえ、起きて」 手を握りしめると、 彼の目が開いた_ 「ねえ……」 私は、彼のほほに顔を近づけた_ 「先生呼んできて」 みんなが慌てて、彼を取り囲んだ_ 彼がゆっくりと、瞬きをした_ 「わかる?」 私は、彼のほほを撫でた_ 「あの、よくわからなくて……」 声が、掠れていた_ 「だいじょうぶ、ゆっくりで」 「あの、僕は……」 彼の目が、かすかに揺れた_ 「なにも、思い出せなくて……」 彼は、 私の名前を、呼べなかった_                                  

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2,092 いいね 2,092投稿から38日19時間21分後
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(2026.08.24 16:20時点で取得)
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『彼女には伝えるべきだって』サッカーを観ていたら、彼氏のスマホが光った_ 画面が開いたままだったから、 内容が読めてしまった_ 彼氏はトイレの中にいた_ 私は、テレビの音量を下げた_ 後半50分_ さっきブラジルがゴールを決めた_ 彼氏はショックでお腹を痛めた_ 点数は1対1_ このまま延長になのか、 日本がゴールを決めるのか、 そんなことよりもいまは、 彼氏のラインだった_ 深夜だけど、 みんなも起きてるだろうから、 たぶんサッカーの話_ 相手は男子だし、 彼氏もサッカーをしてるから、 どうせそれで盛り上がってる_ ぜったいそう_ ぜったい_ 人差し指を、 画面に近づけた_ 「一瞬だけ……」 ラインを開くと、 トイレの水が流れた_ ドアが開いた_ 私はスマホを閉じた_ 「どうなった?」 彼氏が走ってきた_ 「まだなにも」 「よかったあ」 ソファが沈んだ_ 彼氏のスマホはテーブルの上_ 私のスマホはポケットの中_ 「私もトイレ」 立ち上がった_ 「いってら」 「うん、すぐ戻る」 トイレの鍵を閉めて、 『イギリス サッカー留学』と、 検索した_ ここから9600キロ_ さっき見たラインが本当なら、 彼氏は5年間ここに住む_ 『彼女にはまだ言えてない』と、 友達に返していた_ 私は聞いていなかった_ 『でも、やっぱり留学はやめるよ』と、 彼氏は最後に送っていた_ 私は、天井を見つめた_ ずっと応援してきた彼氏の夢_ 5年後は、ふたりとも25歳_ それまで遠距離_ 私は、トイレの水を流した_ 鍵を開けて、 トイレから出た_ 手を洗って、 リビングに戻った_ 「はやくはやく」 彼氏がソファを叩いた_ となりに座ると、 手を握られた_ 「どうなるかな……」 「うん、どうしようね……」 私は、繋いだ手を見つめた_ 25で結婚_ 全然いい_ 5年間の遠距離_ 全然…… 私は、手を握り返した_ 「気にせず、行って来ていいよ」 「ん?」 彼氏と目が合った_ 「私、スマホ見たから」 「え」 彼氏は、手を離した_ 「簡単にスマホ見ちゃう私と、遠距離とか無理でしょ」 「ごめん待って」 彼氏は、身体を向けた_ 「俺が早く話さなかったから」 「ううん、それはいい」 サッカーはまだ続いていた_ 「私、邪魔はしたくないから」 「いいよ、そんなの」 「留学、私のためにやめてない?」 「ううん、お金も掛かるし」 「無理しないで、ほんとのこと言って?」 私は、目を合わせた_ 「ほんとは、行きたいよ」 「じゃあ」 「でも、離れたくないんだよ」 「やっぱり、私のせいじゃん」 「ううん、一緒にいたいが勝ってるだけ」 「でも私、スマホを見たんだよ?」 握り締めた手を振った_ 「わかる? 私やったらダメなことをしたんだよ?」 テレビから、歓声が聞こえた_ 「私、信じてないってことだよ?」 実況の声が、リビングに響いた_ 「だったら俺は」 彼氏は、テレビを見つめた_ 「どうしたらいいわけ……」 ブラジルが、2点目を決めていた_ 「たぶん、別れを考え出すよ」 私は、コルクボードを見つめた_ ユニフォーム姿の彼氏と、 ジャージを着た私が肩を組んでいた_ 「離れたら、もっと考えるよ」 瞬きをすると、写真がぼやけた_ 『つぎは4年記念日』 『これからもよろしくね』 見慣れたふたりの文字が、読めなくなった_ 「俺、行かないよ」 「ううん、行くんだよ」 「行かないって」 「行くの」 私は、彼氏の肩を掴んだ_ 「行って頑張るの、私はそれを観たいの」 顔を近づけた_ 「無理だって……」 ホイッスルが鳴った_ 「無理じゃない」 「サッカーよりも俺は」 「だめ、それは私が許せない」 「それでも俺は、嫌いになれないから」 「いまだけ、そのうち気づくって」 「そんなの、わからないじゃん」 彼氏は、首を振った_ 「私ね、バンドよりもアイドルだから、いつも我慢してたけど、休みの日も家にいたい」 胸が苦しかった_ 「お風呂よりも先にご飯食べたいし、ドライヤーは自分でしたい」 彼氏の目を、見れなかった_ 「知らなかったでしょ、そうやって私は隠してたの」 これからも私は、 きっとバンドを選ぶし、 休みの日は出かけたくなる_ 「たくさん我慢して、私は……」 お風呂のあとのご飯は、 ゆっくりできるってことも知れたし、 自分でやるドライヤーは、 もうめんどくさいって投げ出したくなる_ 「だから、私とはもう、」 ここで決めないと、 止めてしまう_ 「別れたほうがいい」 試合は、終わっていた_ ゆっくりと、 彼氏は目を合わせた_ 「いま、決めることなの……」 「うん、いま決めること」 ゆっくりと、 彼氏は下を向いた_ 私も彼も、 目が真っ赤だった_ 「わかった……」 カーテンの隙間が、 すこしだけ明るくて、 私はまぶたをこすった_ 増えてしまった私の荷物を、 まとめる前に、 5分だけ、 最後の別れのハグをした_ 高2の夏、 インターハイで、 初めて彼にハイタッチを避けられて、 抱きしめられたとき、 泣きながら見上げた白い雲を、 すこしだけ思い出してしまった_                                  

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1,479 いいね 1,479投稿から31日4時間20分後
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(2026.08.08 00:12時点で取得)
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『電話してごめん、ココが亡くなった』ココは、元彼と飼っていた猫だった_ 「嘘でしょ?」 私はベッドから起き上がった_ 『ごめん、嘘じゃない』 『私が連絡しないから、嘘ついてるんでしょ?』 『違う、さっき病院で亡くなった』 ココは、元彼と同棲していたときに私が連れて来た_ マンションの階段にゲージが置かれてて、『引っ越すため誰かお願いします』と、紙が置かれていた_ 雨に打たれていたから、私は急いで病院に連れて行った_ 元彼と話し合って、引き取ることを決めた_ 「ねえ、なんで……」 私は、スマホを握り締めた_ 『宅配を、受け取ってるときに、玄関から』 「おかしい、柵あったじゃん」 『あったけど、そこを飛び越えて』 「そんなこと、1度もなかったよね」 『そう思い込んでた俺が、悪かった……』 元彼の声が震えていた_ 『追いかけたけど、道路の真ん中で倒れてて』 声が、出せなかった_ 『俺のせいで、ごめん』 元彼と別れるとき、ココを引き取るはずだった_ でも、私が借りることのできた部屋が、猫を飼えないところだった_ お金を貯めて、かならず迎えに行くと、元彼には伝えていたけど、 責任は、私にあった_ 「ごめん、私のせい……」 『いや、俺だよ……』 「ううん、私のせい」 『違うよ』 「違くない」 私は、顔を塞いだ_ 「私が、今日そこに行ったから……」 声が震えた_ 『ここに……』 「うん……」 私は今日、降りる駅を間違えた_ 遠回りだったけど、歩いて帰ることにした_ 信号を待っているとき、元彼の家のベランダが見えた_ カーテンの隙間に、ココがいる気がした_ 「私が、手を振ったから……」 手を振ったあと私は、信号は渡らずに河川敷に降りた_ よくココと座ったベンチに腰を下ろして、元彼に連絡をしようとした_ 『近くに来たからさ、待っててもいい?』 でも、家まで来たことが急に恥ずかしくなって、そのまま送らずに帰ってしまった_ 「もしあそこで私が……」 横断歩道を渡っていれば、 チャイムを鳴らしていれば、 「ココ……」 家を飛び出すココの姿が、まぶたの裏に浮かんだ_ 「会いに、行けばよかった……」 スマホを下ろすと、インターホンが鳴った_ 『ごめん、いま出れる?』 元彼の声が響いた_ 私は立ち上がって、玄関まで歩いた_ 壁に手をついて、扉を開けた_ 「ごめん……」 元彼が、頭を下げていた_ 「私のせい……」 足の力が抜けて、しゃがみ込んでしまった_ 「ふたりで、謝りに行こう……」 元彼が、肩に触れた_ 私は、下を向いたまま頷いた_   ココがいなくなった交差点には、花が置かれていた_ 元彼と立ち止まって、手を合わせた_ 車は1台も通らなかった_ 点滅する信号を渡って、河川敷のベンチに座った_ 「ココさ」 元彼が、先に口を開いた_ 「いつも星の柄のタオルケットの上で寝てたよ」 星柄のタオルケットは、いつも私が使っていたものだった_ 「俺がヘアオイルを付けてたらさ、部屋中を駆け回って、何度も俺のことを見上げてた」 ヘアオイルは、私が置き忘れていったものだった_ 「俺が休みの日は、よくここに連れて来たけど、ココはいつも不機嫌だった」 元彼は、私のひざの上にハンカチを置いた_ 「たぶんココは、そこがよかったのかも」 元彼は、遠くを見つめた_ 「たぶん、違う……」 私は、ハンカチをほほに当てた_ 「ココは、私たちといたかったんだよ」 私は、ベンチに手をついた_ 「別れるとか、ココはわからないのに、勝手に決めて、巻き込んで」 下を向くと、小指に、元彼の小指が当たった_ 「いつもココ、外を眺めていたよね」 ココは、カーテンの隙間が好きだった_ 『ココ、おいで』 私たちが手を叩くと、いつもココは、ちいさな足音を立てて、ふたりのあいだに潜り込んだ_ 『ほんとココは、そこが好きだね』 ココはお腹を見せて、いつもちいさな口で鳴いていた_ 「私、離れて気づいた……」 ベンチの上で、元彼の小指が、すこしだけ動いた_ 「私、優しくされてたんだなって……」 「ううん、俺が連絡が遅いとか、いまどこにいるのかとか、気にしすぎたんだよ」 「それは、心配だからでしょ、ただ、お風呂場にスマホは、許してほしい……」 顔を上げると、元彼と目が合った_ 「だって全然上がって来ないから、ココも寂しがってたし……」 元彼は、下を向いた_ 「浴室のドアの前によく立ってたでしょ、私、ココの声でわかってたよ、怖いからやめてよね」 私は、ほほを押さえた_ 「俺、もっと、離れてる時間を好きになりたい」 元彼は、まぶたを擦った_ 「私も、一緒にいる時間を、もっと大切にしたい」 風が冷たくて、足もとの猫じゃらしが揺れた_ 「ごめん、ココ」 元彼が、目を閉じた_ 空を見上げて、 「ごめんね、ココ」と、遠くを見つめた_ 私も、ずっと遠くを見つめた_ 「遅くなってごめんね、ココ……」 「またね、ココ……」 ベンチには、まだすこしだけ距離があった_ あいだには、手の温もりだけが残っていた_ 遠くのほうで、猫じゃらしが揺れた_ 『ココ、おいで』 『ほら、こっちこっち』 『いや、私のほう』 『いや、俺だね』 1本だけ、 『ココ』 陽だまりのように、柔らかく揺れていた_                                  

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69,040 69,040回再生 投稿から36日1時間49分後(865時間)(2026.08.08 00:12時点で取得) 30日経過・確定

「こんな時間までどこにいたの?」お風呂から上がると、彼氏が玄関でスマホを見ていた_ 就活中のスーツが、雨で濡れていた_ 「漫画読んでたらさ、降りる駅間違えて」 彼氏は、靴を履いたまま座り込んでいた_ 「また面接でなにか言われたの?」 「うん、何回も『へえ』って、今日は鼻で笑われた」 「そんなの圧迫面接じゃん」 私は、彼氏の肩にバスタオルを掛けた_ 「俺はもう、誰からも必要とされてないのかも」 「そんなことないよ、だって私がいちばんわかってるもん」 肩に触れると、彼氏は首を振った_ 「だって料理うまいし、いつもタオルふかふかにしてくれるし、私が単位落とさなかったのも、わざわざこの家に帰って来てくれるからだよ?」 顔を覗き込むと、彼氏は下を向いた_ 「俺さ、ひとりになりたくて」 私が選んだ紺色のネクタイが、濡れていた_ 「なんで……」 首の後ろから、汗が流れた_ 「自分の家に帰りたくて」 「我慢してたってこと?」 「うん、俺がやれてることって、家事だけだし」 「違うよ?」 「誰でもできるよ」 「違う、ここにいるだけで私は」 「もうしんどくて」 「私といるのが?」 「うん、写真も見たくなくて」 「それはさ、就活のせいだって」 私が手を握ると、彼氏のスマホが落ちた_ 待ち受けから、私がいなくなっていた_ 「ごめん、それを今日は言いに来た」 彼氏は、スマホを拾った_ 「待って……」 私は、まぶたを擦った_ 「そんなにきついなら、ちゃんとバイバイするから、その前にひとつだけ聞いて」 彼氏の腕を掴んだ_ 「ドライヤーだけさせて」 手を握った_ 彼氏はゆっくりと、顔を上げた_ 「風邪、ひかれたら困るし……」 私が手を離すと、彼氏は靴紐を解き始めた_ 壁に手をついて、立ち上がった_ 「靴下ぬれてるけど……」 「いいよ」 私は、リビングに向かった_ 鏡をテーブルに置いて、絨毯に座らせた_ ドライヤーを持って、コードを伸ばした_ 「はい、いつもみたいに漫画読んでて」 できるだけ私は、口角を上げた_ この10分間のあいだに、 なんとか考え直してほしかった_ 彼氏はスマホを開いて、漫画を読み始めた_ 昨日教えてあげたはずなのに、もう16巻だった_ 彼氏はずっと、同じページを読んでいた_ 付き合いたてのときはよく、鏡の中で笑ってくれたのに、最近は目も合わせてくれなかった_ だから私は、乾いてるのに冷たい風を当て続けた_ 12分_ 今日はいつもより、短く感じた_ 最後に私は、ヘアオイルを出した_ 両手で、彼氏の頭に触れた_ 指の隙間から、柔らかい毛髪がサラサラと解けていった_ 最後に2回だけ、彼氏の前髪を撫でた_ 「はい、いいよ」 私が笑うと、彼氏は顔を上げた_ 「ありがと」 そう言って、すぐに前髪を押さえた_   それから玄関で、私はカバンを渡した_ 「気をつけてね」 「うん」 彼氏は、ゆっくりとドアを開けた_ 風が吹き込んで、雨の匂いがした_ 「またね」 私は、ちいさく手を振った_ 「うん……」 ゆっくりとドアが閉まって、 足音が聞こえなくなるまで私は、玄関から離れなかった_ 就活のせいなのか、 近くにいすぎたせいなのか、 わからなかった_ 顔を上げると、廊下が濡れていた_ 彼氏の足あとが、ポツポツと光っていた_ まだリビングにいる気がして、私はバスタオルを顔に当ててしゃがみ込んだ_   それからの数日は、なにを食べても、飲み込むのに時間が掛かった_ ベッドだと眠れなくて、ソファで寝るようになった_ 就活もやめて、学校にも顔を出さなくなった_ 2ヶ月が経った日の夜、ドライヤーをしていたら、知らない人からラインが来た_ 『夜分遅くにすみません』 その人は彼氏の友人で、 彼氏はずっと就活をしていなかったと聞かされた_ そして、 彼氏は4日前に亡くなっていた_ 私は、ドライヤーを床に落としてしまった_ 『就活の負担になりたくないから、長くないことを隠していたみたいです』 『でもあいつ、あなたが就職するの、すこしだけ嫌がってました』 私が美容師の資格を取ったとき、彼氏は子どもみたいに部屋中を走り回っていた_ 『なんか、他の人にドライヤーしてるとこ見たくないって、笑いながら言ってました』 私は、スマホを握り締めた_ 『それでもやっぱり、最初のお客さんは俺がいいって、治療を頑張ってました』 私は、顔を上げた_ いくらまぶたを擦っても、 鏡の中にはもう、私しか映らなかった_ 『最後にひとつだけ伝えておきます』 もうやめてほしかった_ 『あいつの待ち受け、』 もういないくせに_ 『ドライヤーをしてるあなたでした』 「ずるいよ……」 私は、ドライヤーを握り締めた_ ぬれた髪のまま、クローゼットからスーツを引き出した_ 腕時計とハンカチを、テーブルに置いた_ ベッドの上で、アラームをセットした_ 2ヶ月ぶりに、明日の電車の時刻を調べた_ まだ誰かと会うのは怖かったけど、 待ち受けには、 私をいちばんにしてしまった、 大好きな彼氏の後ろ姿があった_                                  

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「台風来てるし、ウチ来なよ」付き合う気もないのに、バイト先の後輩を家に誘った_ そもそも年下に、興味がなかった_ でも、ふたりきりはまずいと思った_ とりあえず、ほかのみんなも誘うことにした_ 「みんなもさ」 すぐにみんな、提案に乗ってくれた_ 後輩は、スマホを見ていた_ 「安全になるまで、みんなと飲み直そ?」 あらためて後輩を誘うと、 「はい」 頷いてくれた_ 傘を開くと、クラゲのキーホルダーが揺れた_ それから居酒屋を出て、6人みんなで家に向かった_ 俺は途中、何度も後ろを振り返った_ やっぱり、男がついて来ていた_ 後輩の元カレだった_ 顔はちゃんと覚えていた_ バイト先でよく後輩を待ち伏せしていたし、 警察沙汰になったこともあるらしく、 そのことはみんなから聞いた_ みんなは口が軽いから、後輩には申し訳ないけど、詳しく話を聞いておいた_ 別れたのは3ヶ月前らしく、そこから毎日のように付き纏っていると聞いた_ 俺なら、後輩を救えると思った_ もちろん、付き合う気はなかった_ そもそも、フリーのほうが楽だったし_ ただ、1回だけ、コンビニの駐車場で肉まんを食べてるところを見かけて、可愛いなって思ってしまったことはあった_ ひとりでコソコソ、大きな口を開けて食べていたから、立ち止まって眺めてしまった_ なんか、ほっとけない子だった_ 今日も、台風が近づいてるのに飲み会を決行したのは、後輩が心配だったから_ あと、みんなには言ってないけど、今日が最後のバイトだったから_ 「ここの7階」 俺は、マンションを指差した_ みんな、上を見上げた_ 「めっちゃいいとこ住んでるじゃん」 「3泊してもいいっすか?」 「雨じゃなかったら景色良さそう」 みんな酔ってるせいか、いつもよりテンションが高かった_ 「これ、渡しておくね」 エントランスで俺は、後輩に鍵を渡した_ 「え」 「702号室、先にみんなと上がってて」 そう言って俺は、エレベーターのボタンを押した_ 「ちょっとコンビニ行って来るから」 俺は、みんなに背中を向けた_ 傘を握り締めて、歩き出すと、 「待ってください」 後輩が呼び止めた_ 振り返ると、後輩は下を向いていた_ 「台風来てるので、あぶないです……」 声が震えていた_ 後輩はたぶん、気づいていた_ 「私、巻き込みたくないです……」 元カレが、すぐそこまで来てることに_ 俺は、ゆっくりと後輩に近づいた_ 「だいじょうぶ、俺が終わらせるから」 最後くらい、カッコつけたかった_ 自動ドアが開いて、風が吹き込んだ_ 俺はすぐに後ろを振り返った_ 電柱のそばに、元カレが立っていた_ 俺はすぐに前を向いて、 「それに、みんながついてるから」 口角を上げた_ みんなが走って来て、後輩を抱きしめた_ 俺はすぐに後ろを向いた_ 自動ドアを抜けて、元カレを追いかけた_ 俺は叫んだ_ 「待てって」 風が強くて、倒れそうになった_ それでも、追いかけた_ 元カレは傘を閉じて、駐車場の柵をよじ登った_ 俺は傘を投げ捨てて、元カレの服を掴んだ_ 足が顔に当たって、アスファルトに飛ばされた_ 俺は立ち上がって、叫んだ_ 「逃げんなって」 柵の向こうで、元カレは立ち止まった_ 「なんなん?」 元カレが振り返った_ 俺は口に入った泥を、地面に吐いた_ 「潔くあきらめろよ」 俺は、元カレを睨みつけた_ 「はあ?」 元カレが柵を掴んだ_ 「来いよ」 俺は笑いながら言った_ 「おまえさあ、まじでなに?」 元カレは、柵をよじ登った_ 俺は、後ろに下がった_ 元カレが近づいて来た_ すこしだけ、手が震えた_ 雨が目に入って、痛かった_ それでも、 「ほら、来いよ」 口角を上げた_ 「ああ、まじ腹立つ」 元カレは、ポケットからなにかを出した_ 俺に向けて、走り出した_ 俺は、逃げなかった_ なにも、怖くなかった_ だって俺は_   お腹が、 熱くなった_ それでも、 元カレの腕を掴んだ_ 視界が歪んで、 立ってられなくなった_ アスファルトに落ちた_ 熱かった_ 叫び声がした_ 雨の音が、うるさかった_ 段々とまぶたが重くなって、 もう、なにも聞こえなかった_   『骨髄異形成症候群』 そう聞かされたとき俺は、 入院よりも、 アルバイトを優先した_ 『余命は長くても1年』 それでも俺は、 治療を受けなかった_ 『だいじょうぶ、俺が終わらせるから』 そのおかげで、 後輩の前でカッコつけることができた_ どうせ長くなかったし、 これで元カレも捕まるだろうし、 後輩にはみんながついてるし、 ちょっとだけ、 俺が早めにいなくなるけど、   『あの……』 暗かったはずの俺の視界に、 太陽のような光が降り注いだ_ 薄く、目を開くと、 『それ、私も好きです』 水溜りの上に、 キーホルダーが浮かんでいた_ 後輩と初めて話したときに、 近づけあった、 クラゲのキーホルダー_ 『お揃いですね』 あのとき俺は、 『なんか、恥ずかしいね』 あり得ないくらいニヤけた_ そもそも、年下には興味がなかった_ ぜんぜん、好みじゃなかった_ だけど、 このまま目を閉じるくらいなら、 最期にちょっとだけ、 笑った顔も、見てみたかった_                                  

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「台風来てるし、ウチ来なよ」 先輩から家に誘われた_ でも、 「みんなもさ」 先輩は、ほかの人たちも誘った_ 居酒屋の前でみんなは「じゃあ、早く行こう」とか「飲み直そう」とか、盛り上がり出した_ 「だいじょうぶ?」 先輩が傘を開きながら、顔を覗き込んできた_ 「はい、電車も止まってるみたいだし」 私は、スマホを閉じた_ 「ううん、そうじゃなくて」 先輩は、私のスマホを指差した_ 「彼氏」 「え」 「もしいるなら、タクシー呼ぶけど」 先輩と目が合った_ 「大丈夫です」 私は、傘を開いた_ 「あ、そこ水溜りあるから、こっち」 先輩が、服を引っ張った_ 「あ」 私の傘が、先輩の傘に当たった_ 「ねえ、あそこにいる人って知り合い?」 先輩が、耳もとで言った_ 「え?」 反対側の道路に、黒い傘を差した人がいた_ 「あの人、店に入る前にもいたから」 先輩は、傘を低くして言った_ 「あ……」 私は、目を凝らした_ 車のライトが、黒い傘の男を照らした_ 顔が見えた_ 「元カレです……」 私は、先輩の後ろに隠れた_ 「じゃあ、こうしよっか」 先輩は、傘を閉じた_ 頭を低くして、私の傘に入った_ 「前向いて」 そう言って、私の傘を持った_ 「みんなのとこ行くよ」 「はい」 私は、先輩と走り出した_ みんなの背中が見えて、私は立ち止まった_ 「ん?」 先輩も足を止めた_ 「ここからは、ひとりで行けます」 私は、傘を握った_ 先輩は手を離して、みんなを見て笑った_ 「たしかに、こんなとこ見られたら勘違いされそうだね」 そう言って先輩は、傘を開いた_ 「でも、助かりました」 私は、先輩の濡れた背中を見つめた_ 先輩は振り返って、遠くに目を向けた_ 「まだ早いよ、お礼を言うのは」 先輩が、傘を揺らした_ 「前、歩いて」 「はい」 私は、先輩の前を歩いた_ みんなと合流すると、雨がより強くなった_ みんな酔っていて「ねえ、道合ってる?」とか、「こっち?」とか「あれ?」とか、また勝手に歩き出した_ 「みんなそこ右」 それでも先輩は、私たちの後ろを歩いた_ 「ここの7階」 先輩の家は、数えるのが大変なくらい高かった_ 「702号室、先にみんなと上がってて」 エントランスで先輩は、鍵を渡してきた_ 「え」 「みんなのことよろしくね、コンビニで買い物して来る」 先輩は、エレベーターのボタンを押した_ 「7階だからね、あと鍵は閉めてていいから」 そう言って、背中を向けて歩き出した_ 「待ってください」 私の声が、エントランスに響いた_ 「ん?」 先輩が振り返った_ 「台風来てるから、あぶないです」 私は、傘を握り締めた_ 「すぐそこだから、だいじょうぶ」 先輩は笑って、また歩き出した_ 「私……」 声を振り絞った_ 「巻き込みたくないです……」 顔を伏せると、手が震え出した_ 元カレの顔が、頭をよぎった_ 何度も掴まれた手首が、一気に熱くなった_ 息の吸い方がわからなくなった_ 汗が吹き出して、視界がぼやけた_ まぶたの裏に、元カレの腕の血管が浮かんだ_ 自動ドアの開く音がして、風が吹き込んだ_ 「やめてっ」 大声を出すと、先輩が目の前にいた_ 「だいじょうぶ、俺が終わらせるから」 先輩は、傘を強く握り締めていた_ ゆっくりと口角をあげて、 「それに、みんなもついてる」 目を細めた_ 後ろから、みんなが走って来た_ 「ずっと付き纏われてたんでしょ?」 「うちらに頼ってよ」 「おれらはただのバイト仲間じゃないんだからさ」 「よくひとりで耐えたね」 みんな、私の顔を覗き込んで、肩を寄せてきた_ 「もう大丈夫だからね」 背中があったかくて、全身の力が抜けた_ 「歩ける?」 「うん……」顔を上げると、先輩がいなかった_ 「あれ? あいつは?」 「外出て行った?」 みんなが、外を見つめた_ ドアの向こうで、電線が揺れていた_ 横殴りの雨が、ガラスを叩きつけていた_ 「ねえ、どうする?」 「だれか迎えに行く?」 「うちらは部屋で待とう」 みんなの声が、風の音でうまく聞こえなかった_ つぎに覚えているのは、 先輩から届いたライン、 『もう安心して、かならず帰るから』 そして夜中に、 7階の部屋で聞いた、 真っ赤なサイレンの音_ 久しぶりに眠れたはずなのに、 いくら目を擦っても、 空が明るくなっても、 先輩は、帰って来なかった_                                  

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「お母さんが亡くなったのって俺のせいやろ?」卒業式のあと、父に聞いた_ 父は、車のエンジンを掛けながら笑った_ 「なんや急に」 「ばあちゃんが言ってたから」 俺が5歳のとき、母は亡くなった_ 持病が悪化したって聞いてたけど、おとといの夜、俺は知ってしまった_ 「ばあちゃんはいま、記憶がごちゃついてるんよ、間違い間違い」 父は笑いながら、ハンドルを握った_ 父はやっぱり、本当のことを隠した_ 俺は、シートベルトを締めずに父を見つめた_ 「いまから、お墓参り行きたい」 「夕方のデートは?」 「家族と過ごしたいって、彼女には伝えた」 「ほんとに?」 父と目が合った_ 「うん、お母さんと話がしたい」 俺は、シートベルトを締めた_ 父は、すこしだけ迷って、 「じゃあ、花屋さん調べて」 ゆっくりと、アクセルを踏んだ_   花屋を出ると、車は坂道を登り始めた_ 前は青かった葉が、薄桃色の花びらに変わっていた_ 駐車場に着いてすぐ、父は自販機に向かった_ 霊園からは、高校の校舎が見えていた_ 「ホットとアイス、どっちがいい」 俺は、左のミルクティーを受け取った_ 「卒業旅行はどうなったん?」 父は、缶を振りながら言った_ 「沖縄に決めた」 俺は、遠くに見えるグラウンドを見つめた_ 「おお、彼女と沖縄かあ」 父は、ミルクティーを開けた_ 「お父さん、行ったことあるよね?」 「おれ?」 「うん、俺が5歳のとき、お母さんと3人で」 「ないよ」 父は、缶を揺らした_ 「隠さなくていいって、調べてたら出てきたから」 俺は、スマホを握りしめた_ おととい見つけた、13年前の記事_ 『沖縄で水難事故 息子を助けようとして母親が……』 途中で文字がぼやけて、俺は最後まで読めなかった_   「なんで教えてくれなかったの?」 俺は、父と目を合わせた_ 父は、すぐに目を逸らした_ 「俺のせいだから?」 「違う」 「じゃあ、なんで」 「おまえに、嫌われたくなかったからだよ」 父は、右腕を押さえた_ 「おれが、お母さんを救えなかったから」 父はそう言って、腕をさすった_ きっと父は、足もつかない海の真ん中で、母から俺を預かった_ 荒波に飲まれながら父は、母の手も掴みたかったはず_ でも、父の両腕には_ 「俺がいたからだよね?」 俺は、父の手を見つめた_ 「そうだよ、おまえがいたから」 父と、目が合った_ 「おまえがいたから、お母さんは腕を掴まなかった、でもな、おれが掴むべきだった」 父の手が、震えていた_ 「お父さん違う」 俺は、父の手を握った_ 「それなら、だれも悪くない」 俺は、ミルクティーを父の手に当てた_ 「だって俺」 見上げた父の顔が、一気にぼやけた_ 「俺、今日までいっかいも泣かなかったから」 下を向くと、アスファルトに黒いシミができた_ 「ふたりのこと、嫌いにならんよ……」 俺は、父の肩におでこを当てた_ 父の手が、ゆっくりと俺の頭に触れた_ 「それでもな、やっぱりお父さんは怖いんよ」 顔を上げると、父は目を閉じていた_ 俺は、両手で父を抱きしめた_ 「お父さんは、自慢のお父さんだよ……」 強く、父の背中を握り締めた_ 「だって、お父さんの作る弁当、いつも女子から人気だったから、そのせいで彼女に嫉妬もされたし、三者面談のときも、お父さんかっこいいねって、みんなに言われて、ほんと大変だった」 父の胸は、カイロみたいに熱かった_ 「洗濯物畳むのうまいし、お父さんが淹れたコーヒーだけは、砂糖なしでも飲める」 風が吹いて、線香の匂いがした_ 「お母さんが、お父さんを選んだ理由、俺にはわかるよ」 父と、目が合った_ 「でも、たまに見せる寂しそうな顔は、お母さんも俺も、ほっとけないから」 俺は、父の腕を掴んだ_ 「お父さん、もういいよ」 父は目を閉じて、まぶたを擦った_ 「わかった、ありがと……」 笑った父を、俺はもう1度、抱きしめた_   それから父と、霊園を歩いた_ 母のお墓の前で、手を合わせた_ 「実はね」 俺は、ゆっくりと目を開けた_ 「ん?」 「彼女と、別れることになった」 「ええ」 「やっぱり、遠距離は怖いって」 俺が下を向くと、父は笑った_ 「いま言うなよ」 そう言って、俺の肩に肩を寄せた_ 「お母さんも聞いてるんだからさあ」 「でも、好きなまま離れることができて、俺はむしろよかったって思ってる」 「強がんな」 父が、頭を撫でた_ 「強がってないし」 俺は、線香の煙を見つめた_ 「ただ、卒業旅行どうしようかなって」 「沖縄だろ?」 「うん……」 「寂しいもの同士、ふたりで行くか?」 父が、俺の肩に腕を回した_ 「お父さん、強がってない?」 俺は、笑った_ 父は片目を閉じて、口角を上げた_ 「飛行機だけ、ちょっと怖いかも」 「じゃあ無理だね」 俺は、父の手を振り解いた_ 「おいおい、待てって」 「だって怖いんでしょ?」 俺が笑うと、 「いまもう、怖くないかもしれん」 父も笑った_ 線香の煙が揺れて、 「じゃあ、帰ったら準備しよ」 お母さんも、 支度を始めてる気がした_       #collab #クラウン新車で買ってあげる #amazarashi  

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「それなに?」電車の中で、彼氏の首に絆創膏がついてることに気づいた_ 「ああ、これ?」 彼氏は、手で隠した_ 「ねえ、ちゃんと見せて」 私は、彼氏の腕を掴んだ_ 「くすぐったいって」 「いいから、見せて」 どうしても私は、疑いたくなかった_ だって、高1のときから好きだったから_ おととい告白をして、 5年越しに付き合えたのに、 こんなとこで諦めたくなかった_ 彼氏には『同窓会のあとに気になり出した』って言ってたけど、本当は、ずっと好きだった_ 私の知る限り、彼氏には4人の元カノがいる_ 友達からは『あれはやめときな』って言われてたけど、私はそう思わなかった_ 今日は、付き合って初めてのデートだった_ カバンには、着替えも用意していた_ 「ねえ、なんで隠すの?」 「いっかいさ、これ見て」 彼氏は、絆創膏の箱を取り出した_ 「ちいかわのやつ」 「だからなに?」 「ちいかわ好きだよね? これをさ、お揃いにしたくて」 彼氏はそう言って、私の指を握った_ 「ここと、ここ、つけてあげるから」 「別にいい」 私は、荒れた指を隠した_ 「やっぱ、たくさんシャンプーするから?」 「いいって、いまは仕事の話したくない」 「いつか、俺の髪も切ってほしいな」 「いい加減、剥がしてもいい?」 私は、人差し指を近づけた_ 「お揃いにするならね?」 彼氏は、私の指を握った_ 「わかったから、いっかい見せて?」 「お風呂上がりに見せるから」 お泊まりが、決まっていた_ 「は、意味わかんない」 私は、ゆるんだ口角を下げた_ 「ほら、着いたよ」 電車が停まった_ 「行くよ」 うまいこと、流されてしまった_ それから、アニメの原画展に行って、古着屋を巡った_ 「夜ご飯さ、カレーでもいい?」 信号を待ちながら、彼氏は言った_ 「うん? なんでもいいけど」 「家にさ、カレーが残ってて」 夜の8時、彼氏の家に向かった_ 「着替えとかある?」 彼氏は、エレベーターの中で言った_ 「ないから、借りてもいい?」 私は、カバンを押さえた_ 「いいよ、俺が選んであげる」 エレベーターは、5階で停まった_ 「ひとつだけ、先に言っておきたいことがある」 彼氏は、廊下の途中で立ち止まった_ 「うん……」 風が吹いて、私の前髪が揺れた_ 「俺ね、2日前からルームシェアしてて」 「え」 私は、彼氏を見つめた_ 「それでさ、部屋がごちゃごちゃしてて、5分だけ待っててくれる?」 彼氏は、手のひらを向けた_ 私は、カバンの紐を握り締めた_ 「やっぱり私……」 耳の裏に、汗が流れた_ 「ん?」 「帰ろっかな」 下を向いた_ 彼氏が近づいて来て、 「ごめん、驚かせたね?」 顔を覗き込んだ_ 彼氏の首には、やっぱり絆創膏がついていた_ 私は首を振った_ 「私……」 彼氏を見つめた_ 「もう、わかんない」 背中を向けると、彼氏が腕を掴んだ_ 「それなら」 私の手を握った_ 「おいで」 そのまま歩き出して、私はドアの前に連れてかれた_ 「散らかってるけど」 そう言って彼氏は、ドアを開けた_ 部屋の電気がついていた_ 奥から物音がした_ 「紹介するね」 彼氏はしゃがみ込んで、 「おいで」 手を叩いた_ 「この子と住んでる」 そう言って、猫を抱き抱えた_ 私に近づけて、 「よろしくね」と、猫の手を向けた_ 「え」私は、彼氏と目を合わせた_ 「好き? 猫」 「う、うん」 「可愛がってあげてね」 彼氏はそう言って、猫を近づけた_ 「抱っこできる?」 「うん」 私は、猫を抱き抱えた_ 顔を近づけると、柔らかいヒゲが鼻に当たった_ 「名前、つけてほしくて」 「私が?」 「うん、あとこれ」 彼氏は、顔の前で鍵を揺らした_ 「え」 「いつでもおいで」 彼氏は、合鍵を私のカバンに入れた_ 「いいの……」 「いいに決まってる」 彼氏は笑って、私の頭を撫でた_ 「じゃあ、カレー温めるね」 彼氏は靴を脱いで、 「あ、預かるよ」と、両手を広げた_ 「うん」 私は、猫を近づけた_ 短い足が彼氏の腕を蹴って、猫はリビングに走って行った_ 「俺とはまだ、仲良くできないらしい」 彼氏は笑いながら、首を押さえた_ それから、手作りのカレーを食べた_ 「みんなからさ、カップルで猫は飼うべきじゃないって言われたんだけど、なんでかわかる?」 彼氏はスプーンを揺らしながら、言った_ 「たぶん、別れたときの話だよ」 私は、ジャガイモをスプーンで掬った_ 「じゃあ、俺らには関係ないね」 彼氏は、笑った_ 「そうなの……」 私は、スプーンを下げた_ 「うん、そのうちわかるよ、俺といれば」 彼氏が微笑むと、猫が鳴いた_ 「ルナ……」 私は、口にした_ 「ルナ? いいじゃん」 彼氏は、ルナを見つめた_ 「いま思いついたの?」 「ううん、ずっと前」 「なんか、意味ありそうだね?」 彼氏は笑いながら、ルナを撫でた_ 「月だよ」 私は言った_ 「つき?」 彼氏と目が合った_ 「うん、ずっとそれしか、考えられなかったから」 私が笑うと、彼氏は目を細めた_ 「すき、俺も」 ルナが、彼氏に飛びついた_ 「ちょっと、また」 「ある意味、仲良いね」 私は笑った_ ルナはまた、彼氏の首に爪跡を残した_                                  

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『元気?』元彼にラインを送ったら、彼氏が浴室のドアをノックした_ 「だいじょぶ? 寝ちゃってない?」 「うん、もうすぐ上がる」 私はスマホを閉じて、タオルに包んだ_ 「早くしないと、続き観ちゃうよ?」 ドアの向こうで、彼氏が笑った_ 「あと5分だけ、浸からせて」 私は、お湯に肩を沈めた_ 元彼に、ラインを送ってしまった_ あっちの浮気が原因で別れたのに、私から連絡をしてしまった_ 『元気?』 この3文字を打つのに、40分掛かってしまった_ 1回間違えて、送信も取り消したし、熱かったお湯は、冷たくなっていた_ 「あのさ」彼氏はまだ、ドアの前にいた_ 「んん?」 「上がったらさ、話したいことがある」 色の付いたお湯が、ゆらゆらと揺れた_ 「わかった、すぐに上がるね」 私は、浴槽から立ち上がった_ 視界がぼやけて、壁に手をついた_ 「あぶない、あぶない」 そう口にして、シャワーの水を出した_   お風呂から上がると、いつもの場所にドライヤーがなかった_ 「早くおいで」 リビングから声がして、私は浴室を出た_ 彼氏は、ドライヤーのコードを伸ばしていた_ 「ひさしぶりにしてあげる、ここ座って」 言われた通り私は、絨毯に腰を下ろした_ 彼氏は後ろに座って、私の髪に触れた_ 「暑くなったら言ってね、冷たいやつに変えるから」 彼氏はそう言って、ドライヤーを付けた_ 私は下を向きながら、目を閉じた_ 「さっきさ、俺にラインしたよね?」 私は、聞こえてないふりをした_ 「ラインの送信取り消しってさ、ほんと意味ないよね」 彼氏は笑いながら、あったかい風を揺らした_ 「消したことバレるし、逆に気になるよね」 前髪の下が熱くなって、私はおでこを押さえた_ 「あれって、元彼に送ろうとしてたやつ?」 彼氏は、冷たい風を揺らした_ 「取り消したってことは、ちゃんと元彼には送れたってこと?」 振り返ると、彼氏はドライヤーを止めた_ 「元彼のこと、ぜんぶ知ってるからさ、会いたいなら会いたいって言っていいんだよ」 彼氏は、口角を上げた_ 「その代わり、俺もついて行くけど」 「元彼とは、会いたくないよ……」 私は、顔を伏せた_ 「ううん、会って来て」 彼氏が、顔を覗き込んだ_ 「できれば早めに」 彼氏は顔を上げて、カレンダーを見つめた_ 「明日とかどう?」 「いいって……」 「お見舞いってさ、夜でもいいんだっけ?」 彼氏は、天井を見上げた_ 「仕事あとに行こっか、俺は車で待っとくからさ」 「ねえ……」 「ちゃんとさ、元彼と話してきて」 「おかしいよ……」 「元彼、そう長くないんでしょ? そのままいなくなったらさ、ほんとのことわからないままじゃん」 「いいよ……」 「病気のこと、知らなかったんでしょ?」 私は、下を向いた_ 「浮気も、ほんとはしてたかわからないじゃん?」 彼氏はそう言って、私の肩に触れた_ 「まあでも、傷つけたことには変わりないから、ちゃんと謝ってもらお」 彼氏は、私の腕を撫でた_ 「それにさ、俺が言い出したわけだし、まだ付き合うのは怖いって言ってたのに、それでもいいよって」 顔を上げると、彼氏と目が合った_ 「来週の3ヶ月記念日、笑って迎えたいじゃん」 彼氏は笑って、カレンダーを見つめた_ 「よくないよ……」 「元彼が元気なうちにさ、謝ってもらお?」 彼氏が、私のほほに触れた_ 「一緒なら、俺も怖くないからさ」 顔を塞ぐと、彼氏がほほを寄せた_ 「私……」 「だいじょぶ、もしやっぱりってなっても、俺は待てるから、鍵は持っててね」 「私、行かないよ……」 「いいって、行って来な」 「ううん、もういいの」 私は、顔を上げた_ 「いまの私を、見せたかっただけだから……」 私は、スマホを握りしめた_ 「あ、だからラインの写真変えたの?」 彼氏は、私のスマホを見つめた_ 「ほんとは、誰にも見せたくなかったけど……」 「言ってたもんね、ツーショットは私だけのって」 「でも、どうしても、元気なうちに見せつけたかった……」 「じゃあ、いまごろ元彼は泣いてるかもね?」 彼氏は笑った_ 「ううん、どうせ誰かといるよ」 私は、カーテンの隙間を見つめた_ 「それでも、そのまま眠れなくなってればいい」 遠くの月はもう、ぼやけなかった_ 「きっと、眠れなくなってるよ、これで元彼に仕返しできたね」 「だから、もう消す」 私は、スマホを開いた_ 「いまはいいよ」 彼氏が、私の手を掴んだ_ 「いまは、なにも考えなくていい」 そう言って、私の背中を抱き寄せた_ 「俺だけにして」 同じシャンプーの匂いに、私は涙を流した_ それから彼氏は、ソファの上で腕まくらをしてくれた_ 首にあたる寝息があったかくて、私も寝そうになった_ それでも目を擦って、ラインを開いた_ 既読の付かない元彼を、親指でブロックした_ 昨日から鳴り止まない大学のグループラインも、非表示にした_ みんなが口にする、元彼へのメッセージは、もう読みたくなかった_ これ以上、元彼のことを想像したくなかった_ 彼氏のことで、いっぱいにしたかった_ 私は、スマホを閉じて彼氏を抱き締めた_ 息ができないくらいに、強く_ もう、ひとりにはなりたくなかった_                                  

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348,424 348,424回再生 投稿から42日13時間16分後(1,021時間)(2026.07.24 10:10時点で取得) 30日経過・確定

彼氏の家で、ネイルチップを見つけた_ 浴室の排水溝に落ちてた_ 「昨日さあ、だれか泊めてたの?」 私は、リビングに向かって叫んだ_ 「え、なに?」 ドア越しに、彼氏の足音が近づいてきた_ 「待って開けないで、まだ服着てない」 私は急いでTシャツを着た_ 短パンを履きながら、何度も転けそうになった_ 「だいじょぶ?」 彼氏が、ドアをノックした_ 「そのまま開けないで」 私は、ネイルチップを鏡の前に置いた_ やっぱりヘアオイルは、前来たときよりも減っていた_ 「あのさ、ぜんぶ気づいてるから話して」 私は、ドアノブを見つめた_ ドアの向こうで彼氏は、なにも言わなかった_ 「黙ってないで、自分から話して」 私は、バスタオルを握りしめた_ 「ごめん……」 彼氏の声が、ドア越しに響いた_ 私はバスタオルを顔に当てて、床にしゃがみ込んだ_ 「ぜんぶ、知ってるんだから……」 さっき、彼氏がお風呂に入っているあいだ、私は借りていた本を本棚に戻そうとした_ つぎに読みたいものを探していたら、見てはいけないものを見つけてしまった_ 「隠すなら、ちゃんと隠してよ……」 私は、ドアノブを握った_ 誕生日にくれた指輪が、痛かった_ 「ごめん……」 ドアの向こうで、彼氏は鼻をすすっていた_ 「泣くなら、こんなことしないでよ」 私はドアを開けた_ 彼氏は下を向いたまま、後ろに下がった_ 「もういいから」 私は、しゃがみ込む彼氏を両手で抱きしめた_ 「許すから」 涙が溢れて、喉の奥が痛かった_ さっき、私は見てしまった_ 本棚に『診断書』と書かれた1枚の紙_ 引き抜くと、『白血病』と書かれていた_ 「ほんとのこと言って……」 私は、彼氏の背中を掴んだ_ それでも彼は、 「俺……」 声を震わせながら、 「ほかに、好きな人ができた……」 嘘をついた_ 付き合って1年と8ヶ月、 「俺と、別れてほしい……」 彼は、別れることを選んだ_ いつも、電話を繋がないと眠れないって言うくせに、 ベランダから見えなくなるまで、手を振ってるくせに、 待ち合わせには、1時間前から来て退屈してるくせに、 水族館の年パス、またくれたくせに、 「わかった……」 私は、ゆっくりと顔を上げた_ 「別れよ」 彼がそう決めたのなら、 「私も、嫌いになるね」 後悔させてあげる_ 「ごめん……」 ぜったいに病気なんか治して、 元気な姿で、やっぱりなんて言い出しても、 もう遅いんだから_ 私は最後に、彼氏の頭をぐしゃぐしゃに撫でた_ 彼の髪からは、私のヘアオイルの匂いがした_ 浴室に落ちてたネイルチップは、私の好きな水色を選んでしまっていた_ 下手くそな彼の嘘に、私は笑って、 「元気でいてね」 いちばんの笑顔を見せつけた_ 離れたあとに思い出す顔は、これにしたかった_   それから私は、彼の連絡先をブロックした_ 写真もぜんぶ消した_ このまま私は、彼のことを忘れようとした_ その2年後、 友達の結婚式に、彼が来ていた_ 大学の先輩たちと笑いながら話していて、私と同じテーブルになった_ 私とは、1度も目を合わせてくれなかった_ そこで私は思った_ 本当に彼は病気だったのか_ 元気そうだし、 私だけが騙されていたんじゃないかって_ 他人になって、よくやく気づいた_ あの診断書は、自分で作ったもので、私に嫌われたくないから病気のふりをしていたんじゃないかって_ そう思うと、急に腹が立った_ 式のあと、私は彼を呼び止めた_ 「またそうやって、本当のことは言わずにいなくなるわけ?」 エントランスには、華やかな音楽が流れていた_ 彼は背中を向けたまま、黙っていた_ 「私、不眠症になったんだけど」 せめて本当のことを言って、いなくなってほしかった_ 「ごめん……」 彼はゆっくりと振り返った_ 他人を見るような目で、私のことを見つめた_ もう私は、優しくできなかった_ 「もうさ、2度と私の前に現れないでほしい」 私は背中を向けて、彼のもとを去った_ 会場に戻ると、彼とよく一緒にいた男子が話しかけてきた_ 「あいつ、ニ次会来ないって?」 「ごめん、誘わなかった」 「どうして」 「同じ空気吸いたくないし、もう顔も見たくない」 私はそう言いながら、つけていた指輪を外した_ 「そっかあ、あいつのお見舞い行けなかったし、いろいろ話したかったのにな」 「え」 「あれ、聞いてない?」 「待って」 私は、急いで会場を出た_ 走って、エントランスに向かった_ 自動ドアを抜けると、タクシー乗り場に彼がいた_ 「あ……」名前を呼ぼうとしたら、 彼のとなりには、大学の先輩がいた_ 「行こっか」そう言って、 ふたりはタクシーに乗り込んだ_ そのまま、走り去って行った_ 握っていた指輪が、地面に落ちた_ 「そっか……」 ぜんぶが、本当だった_ 浮気も、病気も、 なにひとつ、彼は嘘をついていなかった_ 私は、彼のラインを開いた_ ブロックしていたトーク画面に、文字を打った_ 『元気でいてね』 最後のメッセージを送った_ 終わった画面を閉じたあとも、 いくら空を見上げても、 なにを目にしても、 「どうして……」 嫌いになり方だけは、まだわからなかった_                                  

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2026.07.24 10:10 時点 30日経過・確定 投稿から42日13時間16分後(1,021時間)
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267,274 267,274回再生 投稿から37日3時間28分後(891時間)(2026.07.09 22:15時点で取得) 30日経過・確定

「浮気したくせに、よく来れたね?」友達の結婚式で、元カノと会った_ 「やめなよ」同じテーブルにいた大学の先輩が、元カノの腕を掴んだ_ 「なんで浮気したん?」元カノは、2年前の答え合わせをしようとした_ 俺は、目を合わせることができなかった_ 会場には、華やかな音楽が流れていた_ 「ふたりとも落ち着いて? ね、ほら飲も」先輩はそう言って、元カノにシャンパンを渡した_ 「そっちはウーロン茶にする?」 先輩が俺のグラスを指差した_ 「はい……」 俺が頷くと、元カノはため息を吐いた_   披露宴のあと俺は、二次会には参加せずタクシーを待っていた_ 「またそうやって、なにも言わずにいなくなるんだね」 後ろから声がして、振り返ると、パールブルーのドレスが目に入った_ エントランスに、元カノが立っていた_ 「ねえ、いつから浮気してたわけ?」 元カノは、目を合わせることなく言った_ 「ごめん、覚えてない……」 俺は頭を下げた_ 「同棲の準備してたとき、なにを考えてたわけ?」 「ごめん、思い出せない……」 「おかげで私、不眠症になったんだけど?」 「ごめん……」 俺は、ゆっくりと顔を上げた_ 「なんで浮気できたわけ?」 元カノと、目が合った_ 「わからない」 俺は、下を向いた_ 「私が今日来ることはわかってたよね?」 「いちおう……」 「じゃあどうして来たわけ?」 「それは……」 「もうさ、2度と私の前に現れないでほしい」 顔を上げると、元カノのネックレスが揺れた_ そのまま背中を向けて、会場へと戻って行った_ 俺は天井を見上げたまま、動けなくなった_   2年前、俺が白血病にならなければ、いまごろふたりで二次会にも参加してたのかもしれない_ いま思えば、『好きな人ができた』と嘘をつく必要はなかった_ 俺はただカッコつけて、病気のことを伏せた_ 映画の主人公みたいに、どうせすぐにバレて、感動の再会ができると思っていた_ でも、連絡先はすぐにブロックされて、それ以来会うことはなかった_ それから俺は入院をして、3ヶ月前に『今のままいけば再発の可能性は低い』と、言ってもらえた_ 涙が止まらなくて、それと同時に吐き気がした_ 最初から、嘘なんかつかなければよかった_ 素直に、そばにいてほしいと言えばよかった_ 本当は、俺のいないところで、幸せになんかなってほしくなかった_   元カノの薬指には、指輪がついていた_ 俺はあまり見ないようにして、本当のことは伝えなかった_   俺はジャケットを脱いで、タクシー乗り場に向かった_ 歩いていたら、後ろから足音がした_ 「待って」 振り返ると、黒いドレスを着た先輩が息を切らしていた_ 「どうしたんですか」 俺が立ち止まると、先輩はゆっくりと顔を上げた_ 「一緒に乗っていい?」 「え?」 「久しぶりに会えたんだし、飲みにでも行かない?」 先輩のピアスが、ゆらゆらと揺れた_ 「このまま帰ったら、後味悪いでしょ?」 そう言って先輩は、俺の肩を叩いた_ タクシーのドアが開いて、先輩が笑った_ 「ね? 行こ」 そのまま俺は、タクシーに乗せられた_   「あまり飲めてなかったでしょ?」 タクシーの中で先輩は、ずっと前髪を気にしていた_ 「まあ、来た俺が悪いんで」 俺は、窓の外に見える式場を見上げた_ 「やっぱりさ、まだお酒は控えてるの?」 「え……」 俺は、先輩と目を合わせた_ 「病み上がりでしょ?」 先輩は笑いながら、人差し指を向けた_ 「どうして……」 俺は、ジャケットを握りしめた_ 「まあそれはまた、お酒飲みながら話そ」 先輩はそう言って、ピアスを揺らした_ 右ポケットが震えて、俺はスマホを開いた_ 『元気でいてね』 元カノからラインが来ていた_ 画面を見つめながら俺は、先輩に聞いた_ 「病気のこと、だれから聞いたんですか……」 元カノのアイコンが、ぼやけた_ 「んん、いまは教えたくないかな」 先輩はそう言って、足を近づけた_ 「だれですか……」 「ちなみに、だれがいいの?」 先輩が、俺の顔を覗き込んだ_ 「それは……」 俺は、顔を逸らした_ 「泣かないでよ」 先輩の手が、右ほほに触れた_ 「ごめんなさい……」 手を解くと、香水の甘い匂いがした_ 「だいじょぶだよ」 先輩が頭を撫でてきた_ 首を振ると、握っていたスマホが光った_ 『メッセージの送信を取り消しました』 「あ……」 顔を上げると、先輩と目が合った_ 先輩の手は、震えていた_ 俺は、いまになって気づいた_ 元カノの薬指についてた指輪、 あれは、 たしか、 誕生日にあげた…… 「ぜんぶ私が、忘れさせてあげる……」 先輩が、俺のくちびるを塞いだ_                                  

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7,900 いいね 7,900投稿から37日3時間28分後
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2026.07.09 22:15 時点 30日経過・確定 投稿から37日3時間28分後(891時間)
空白代行のTikTok投稿
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117,244 117,244回再生 投稿から40日4時間14分後(964時間)(2026.07.09 22:15時点で取得) 30日経過・確定

別れた彼女から『今まで貢いだぶんのお金返して』とラインがきた_ レシートは全部とってあるらしい_ 俺は言われた金額を封筒に入れて、彼女に会いに行くことにした_ 『どこに向かえばいい?』 『ここに届けて』 送られて来た住所を検索すると、病院が表示された_ 俺は急いで、病院に向かった_ 受付で名前を伝えると、病室に案内された_ 扉を開けると、彼女がいた_ 「なんで来るわけ」 彼女はそう言って、ベッドに横になった_ 「だって」 俺は、ベッドに近づいた_ テーブルの上には、昔あげたアルバムと、たくさんのレシートがひろげられていた_ 「お金、そこ置いといて」 彼女は背中を向けて、布団を被った_ 「なんで隠してたの?」 俺は、シーツに手をつけた_ 「話したくない」 彼女は布団の中で、ため息を吐いた_ 「看護師さんから聞いたよ、俺と別れる前から通ってたって」 「うるさいなあ、もう」 布団がめくれて、彼女が顔を出した_ 俺は、彼女と目を合わせた_ 「ボブ、似合ってるね……」 思わず俺は、口にした_ 「気安く褒めんな」 彼女はそう言って、また布団を被った_ 「連絡してくれてありがとう」 俺が布団に触れると、彼女は枕に顔を伏せた_ 「ここにいるとストレスやばいから、憂さ晴らしだし」 「じゃあ、いまから出かけよう」 「は?」 彼女が顔を出した_ 「さっき先生に頼んで、外出許可もらったから」 「がち?」 「これ使ってさ、美味しいもの食べ行こ?」 俺は、封筒を彼女に向けた_ 「それ、あたしのお金だし」 彼女はくちをとがらせて、顔を逸らした_ ベッドから起き上がって、メイクポーチを両手で抱えた_ 「準備するから、外で待っとけ」   それから彼女と、すぐそばの海に出かけた_ 彼女は貝殻をたくさん拾って、俺のポケットをいっぱいにした_ 「ねえ、砂まで入れないでよ」 「ちょっと下向いて」 彼女は、俺のフードにまで貝殻を入れてきた_ それから彼女と、電車に乗って市内に向かった_ 「マック食べたい」 「もっと健康的なやつ」 「すでにあたし、健康じゃないんですけど?」 「いやごめん、笑えない」 それから彼女と、モスバーガーを食べた_ 「ねえ、水族館行きたい」 「それは遠いから、また今度」 「ええ、あたしそんな余裕ないんだけど?」 「ねえ、笑えないって」 「笑ってるじゃん」 「これは、顔を見てたらそうなるの」 「へんたい」 日が沈む前に、戻らないといけなかったから、最後は病院の近くの海で夕陽を見ることにした_ 「ねえ、それにしても多くない?」 砂浜を歩きながら、彼女は封筒の中を覗き込んだ_ 「そう?」 「うん、だってこんなに厚いよ?」 彼女は封筒を、顔の横で揺らした_ 「それだけ俺のことが、好きだったってことだね」 俺が笑うと、彼女は砂を蹴った_ 「ちょっと」 靴に砂が入って、俺はしゃがみ込んだ_ 「ほらほら、頭にもかかっちゃうよ」 顔を上げると、彼女も笑ってて、俺はまぶたを擦った_ 「え、ごめん、目に入った?」 目を開けると、彼女が顔を覗き込んでいた_ 俺は、彼女の頭を撫でた_ 「だいじょぶ、また出かけようね」 「彼氏づらすんな」 彼女は首を振って、眉間にしわを寄せた_ とがったくちびるが可愛くて、俺は人差し指を当てた_ 「気安く触んな」 彼女は立ち上がって、舌を出した_ 走り出す彼女を、俺は追いかけた_   『あとどれくらいなんですか』 さっき俺は、外出する前に担当の先生と話をした_ 『このままいけば』 告げられた余命に、俺は顔を伏せた_ 『でもひとつだけ』 先生は、あることを俺に教えてくれた_     「あのさあ、あたしの貝殻落としたら、もう一生会わないからね」 彼女が、遠くの海に向かって叫んでいた_ 「じゃあ止まってよ」 俺は、靴を泥まみれにしながら、彼女を追いかけた_ 「早くしないと、日が沈んじゃうよ」 それでも彼女は、止まらなかった_ 俺は立ち止まって、叫んだ_ 「また明日も、俺と遠くに行こうよ」 やっと彼女は立ち止まって、振り返った_ 「むりだって」 そう口にして、彼女はしゃがみ込んだ_ 顔を塞ぐから、俺はカバンを投げ捨てて走った_ 泥にひざをつけて、彼女を抱きしめた_ 「だいじょうぶ、もっと思い出増やそ」 「むりだよ……」 涙を流す彼女を、俺は強く抱き寄せた_   来月、俺は彼女を連れてアメリカに飛ぶ_ まだ彼女には話してないけど、 そこで治療の可能性が広がる手術を受けてもらう_ 先生からは、莫大な費用がかかると言われたけど、俺は迷うことなくハンコを押した_   「来月、アメリカ行こ」 俺は、彼女の顔を覗き込んだ_ 「え……」 彼女は、ゆっくりと顔を上げた_ 「お金のことは気にしないで」 「でも……」 「その代わり、貢いだぶんは返してね」 俺は、彼女のほほに触れた_ 彼女は俺の目を見て、クスッと笑った_ 「ださすぎ」 「え?」 「ださすぎって」 「だいすき?」 「は?」 「いま言ったよね?」 「言ってないし」 彼女は俺の肩を押して、走り出した_ 「ちょっと待ってよ」 立ち上がろうとすると、フードから貝殻がこぼれた_ 砂浜に、ルビー色の指輪が落ちた_ 「ねえ、これ」 顔を上げると、彼女が両手を振って笑っていた_ 「早くしないと暗くなるよ」 「いま行く」 俺は立ち上がって、彼女を追いかけた_ 「あたしといると、つかれるでしょ」 息を切らす俺に、彼女は言った_ 「ぜんぜん」 俺は顔を上げた_ 「どこまでも追いかけるよ」 また俺は、大好きな彼女の笑顔を目にしていた_                                  

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元カレに『妊娠してた』って写真を送ったら『名前どうする?』って返事が来た_ この人はいつも、 こういう人だった_ 初デートで行った動物園でも、 ずっと私の前を歩いていた_ 『早く早く』と振り返るくらいなら、 手を繋げばいいのにって、 私はすねていたのを覚えている_ 同棲してからは、 スーパーでも手を繋いで来るようになって、 たぶんこの人は、 自分のペースを尊重してる人なんだって知った_ 彼と別れたのは3ヶ月前、 初めて喧嘩になって、 私は家出をした_ 追いかけて来ないから、 私は『別れよう』ってラインを送った_ いくら待っても既読が付かないから、 私は彼をブロックした_ いま思えば、 元カノと電車で話していたからって、 あそこまで怒る必要はなかった_ 家出をして5日後、 私の実家に荷物が届いて、 あっちは本気なんだと、 私は気づいた_ それから妊娠が発覚して、 私はすぐに検査薬の写真を送った_ でも、 既読は付かなかった_ ブロックされていて、 同棲していた部屋も解約されていた_ 私はそこで気づいた_ 彼にとっての元カノは、 ブロックもできるし、 簡単に切れるものなんだって_ ようやく私は、 同じ立場になって、 もう戻れないんだと気づいた_ それでも彼の実家に手紙を送ったのは、 せめて仲直りをして、 ちゃんと妊娠したことを、 ふたりで話し合うべきだと思ったから_ 3ヶ月も経っていたし、 家を突然出たのも私、 別れようとブロックしたのも私、 そんな中で妊娠してたなんて、 疑われてもおかしくないと思った_ それでも彼は、 「やっぱりここにいた」 私を見つけ出した_ 夜の公園で、3ヶ月ぶりに元彼と再会した_ 「夜の公園は寒いね」 元彼は笑いながら、ベンチに近づいて来た_ 「なんで……」 「はい、これ」 カイロを渡されて、私は元彼を見上げた_ 「当てときな」 元彼はお腹を押さえた_ もうすぐ6月だと言うのに、カイロはとても熱かった_ 「なにしに来たの……」 私は、カイロを握り締めた_ 「様子、見に来た」 元彼はそう言って、しゃがみ込んだ_ 「怖くないの……」 「怖い?」 元彼は、私のお腹を見つめた_ 「聞かなくていいの……」 「え、なにを」 「なん週目なのか……」 「あ」元彼は上を向いて、腕を組んだ_ 「そっか、そのパターンもあるのか」 口を開けたまま、空を見上げた_ 「普通、疑うよ……」 私は顔を伏せた_ 「でもさあ、写真に映ってたから」 顔を上げると、元彼がスマホを向けていた_ 画面には、妊娠検査薬が映っていた_ 「このレモンイエローのネイル、俺がよく塗ってあげてたやつ」 写真には、私の指も写り込んでいた_ 「これを見たらさ、まだ好きなんじゃんって、思ってしまって」 「それだけで?」 「うん、それだけ」 元彼は私の目を見て、口角を上げた_ 彼に委ねていた時間が、一瞬で引き戻された気がした_ 遠くのブランコが揺れて、ほほに冷たい風が当たった_ 「触ってみてもいい?」 彼が、手のひらを向けた_ 「うん……」 私は、カイロを握り締めた_ 彼の手が、お腹に触れた_ 「なんか、動いた」 彼は笑って、ゆっくりと撫でた_ 「14週目だよ……」 私がそうつぶやくと、 彼は目を細めて、 「そっか」と、私の手を握った_ あご先から涙が落ちて、彼が立ち上がった_ 「となり、座っていい?」 蛍光灯の明かりが眩しくて、 「うん……」 私は、目を擦りながら頷いた_ 彼は、ゆっくりとベンチに座った_ 遠くのマンションを指差して、 「やっぱり、明かりがついてるね」と、つぶやいた_ 私も、一緒に暮らした5階のベランダを見つめた_ 「また、あそこがよかったなあ」 彼はそう言って、背中を丸めた_ 「もう空いてませんって、言われちゃったよ」 彼は笑いながら、両手で顔を塞いだ_ 「手……」 私は、彼の服を掴んだ_ 「ん?」 「手、出して」 「うん」 彼は、左手を開いた_ 「これ……」 私は、彼の手のひらに合鍵を乗せた_ 「え」 彼が、私の目を見つめた_ 私は、マンションの5階を見つめた_ 「帰ろ……」 「え……」 彼は、合鍵を握り締めた_ 私は、彼がいつ帰って来てもいいように、 解約された部屋を借りて、 毎晩、電気も消さずに朝を迎えた_ 今日も、 もしかしたら見上げてくれるかもって、 「ずっと私……」 「明るくして、待っててくれたんだね」 カイロが足もとに落ちて、 私の身体は、温もりに包まれた_ 「ありがとう」 抱きしめる彼の声は優しくて、 私もつよく、彼を抱き寄せた_ 重ねたほほは暖かくて、 彼の口角が上がっていくのがわかった_ まだ私は、うまく笑えなかったけど、 顔を上げると、 目を赤くした彼がいた_ 「ただいま」 「うん、おかえり……」 なによりも、 お腹の中には、 私と彼の大切な赤ちゃんがいた_                                  

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2026.07.09 22:15 時点 30日経過・確定 投稿から41日2時間34分後(986時間)
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1,000,886 1,000,886回再生 投稿から31日18時間2分後(762時間)(2026.06.26 12:13時点で取得) 30日経過・確定

父親に「彼女とは別れたよ」って伝えたら「うちに手紙来てたけど」って言われた_ 車内には、HYのNAOが流れていた_ 「家に?」 「うん、開けずに取ってあるけど」 車は、実家に向かっていた_ 3ヶ月前、俺は彼女と同棲していた部屋を解約した_ 「それって、いつの話?」 「お母さんから着信来てた日あるやろ、その日」 スマホを開くと、1ヶ月前だった_ 「なんで早く教えてくれなかったん?」 「電話も出ないし、別れて傷心してるのかもって、お母さんがそっとしておこうって」 「まじか……」 俺は、スマホを見つめた_ 「でもなんでわざわざ手紙を」 父はそう言って、首を傾げた_ 「たぶん俺が、引っ越したから」 「連絡は?」 「取ってない、ブロックしてる」 「そっか」 父は、ゆっくりとブレーキを踏んだ_ 「俺の実家の住所、なんでわかったんだろ……」 「覚えてたとか? ほら、去年の夏に1回うちに連れて来たとき」 「だとしても、1年前だよ」 信号が青に変わった_ 「ほら、そこのコメダ珈琲とか、遠くに見えてる福岡タワーとか、目印になるものはたくさんあるし」 「まあ、確かに、マップで調べたら住所はわかるのか」 スマホを握りしめると、父が笑った_ 「読むの怖いんだろ?」 「うん、すこしだけ」 俺が下を向くと、父はウィンカーを出した_ 「ちょっとコンビニ寄るよ」 「うん」 車を降ると、父はコンビニに向かった_ 俺は、遠くに見える福岡タワーを見上げた_ 「なんかいるか?」 「ううん、だいじょうぶ」 夜の福岡タワーは、青く光っていた_ 「おまたせ」 父がコンビニから出て来た_ 車に乗り込むと、父はグミを開けた_ 「いる?」 「なんでグミ?」 「キラふわって、気にならん?」 父は笑いながら、キラふわグミを口に咥えた_ 「まあ、気になるけど」 俺も、キラふわグミを食べた_ 「あのさ」 3つめのグミを噛みながら、俺は福岡タワーを指差した_ 「あそこ、寄ってもいい?」 「いいけど、お父さん高いとこ苦手だよ?」 「別にお父さんは、下で待ってていいよ」 俺は、すこしだけ笑った_   「大人2枚で」 結局父は、上までついて来た_ 「お父さん夜だと平気かも」 父はガラスに顔を近づけて、夜景を眺めていた_ 「ちょっと俺、あっちにいるね」 俺は、カップルが集まってるところに向かった_ しゃがみ込んでいたら、父が顔を覗かせた_ 「なにそれ」 壁には、たくさんの鍵が並んでいた_ 「なんか、愛鍵って言って、この錠に名前を書いて付けるだって」 「へえ」 父は、鍵に手を伸ばした_ 「永遠をここで願うわけだ」 カラフルな鍵たちが、音を鳴らした_ 「あれ? これ」 父が、肩を叩いた_ 「あ……」 見慣れた文字が、父の指先で揺れた_ 「登るの1年ぶりってこと?」 父が日付を見て笑った_ 「それ、外そうかな」 「だめだろ」 「なんで」 「綺麗に飾ってあるんだから」 そう言って父は、彼女の名前を親指でなぞった_ 「でも、別れたわけだし」 目を逸らすと、父が笑った_ 「お母さんもな、枯れた花を壁に掛けてるわけ、なんかドライフラワーって言うらしい」 大声で笑うから、俺はあわてて立ち上がった_ 「みんな見てるから、行くよ」 そのあと父と、夜景の写真を撮って車に戻った_ シートベルトを締めて、スマホを見ていたら、父が覗き込んできた_ 「あ、いまだれに送るか迷った?」 「そんなわけ」 俺は、スマホを閉じた_ 「別にいいと思うけどね、お父さんも来週、車買い替えるし」 「ああ、そう」 「1年しか乗ってないから、お母さんは切り替え早すぎって、うるさいけどね」 父は笑いながら、エンジンを掛けた_ 「あのさ」 「ん?」 「枯れたのに、飾っておくって残酷すぎない?」 「ああ、ドライフラワー? あれはたぶんね、捨てられないくらい立派に咲きましたねって証やね」 「綺麗ごとすぎない? だって枯れてるわけだし」 「まあでもさ、みんな咲いたことだけを覚えていたいんだよ」 アスファルトが、白く光った_ 「よし、帰るよ」 福岡タワーは、まだ光っていた_   「ずいぶん遅かったね」 1年ぶりに会う母親は、なにも変わっていなかった_ 「はい、これ」 封筒には、彼女の新しい住所が書かれていた_ 「ちょっと、コンビニ行って来る」 久しぶりに俺は、自転車を走らせた_ 海沿いについて、ベンチに腰を下ろした_ 息を整えて、手紙を開いた_   『まず、この手紙を読んだらすぐに連絡をください』   蛍光灯の明かりが、足もとの影を揺らした_   『もっと早く、伝えるべきでした』   風が吹いて、汗が落ちた_   『私、』   文字が、ぼやけた_   『妊娠してます』                                  

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彼女に「先輩と飲んでた」って言ったら「元カノやろ」って言われた_ リビングに入ると、除光液の匂いがした_ 彼女は昨日、明日のデートのためにネイルサロンに行っていた_ 「明日の映画さ、友達と行って来るから」 彼女はコットンを爪に押し当てて、ネイルを落としていた_ 「え……」 俺は荷物を床に置いて、絨毯にひざをつけた_ 「なんでいま、嘘ついたわけ?」 彼女は、コットンを潰しながら言った_ 「電車、21時15分のやつ、私も乗ってたんだけど?」 彼女と目が合った_ ベランダが網戸になっていて、遠くからバイクの音がした_ 「あんた前に、元カノのチェキ捨て忘れてたじゃん?」 彼女が、除光液の蓋を閉めながら言った_ 「あの子さ、動いてるとより可愛く見えるタイプだね?」 彼女は笑みを浮かべて、天井に手のひらを向けた_ 「で? なに話してたの?」   元カノと今日、駅のホームで偶然会った_ 軽く雑談をして、俺は違う車両に乗ろうとした_ それなのに、   「なんか、がんになったらしくて」 俺は、彼女の爪を見つめた_ 「で?」 彼女は、コットンをゴミ箱に投げた_ 「病院から逃げてるって言うから、電車で話聞いてた」 「嘘やろ」彼女は鼻で笑った_ 「あんたと話したいから、病人のふりしたんやろ」 「いや、それはないと思う」俺はテーブルに手をつけた_ 「あっちにはちゃんと彼氏がいるから」 「だからなに? それが嘘つかない理由になるわけ?」 「うん……」 「どうせあんたも同情するふりして、まだ好きなんやろ?」 「それはない」 「ラインもまだ、繋がってるんじゃないの?」 彼女は立ち上がって、スマホを見つめた_ 「下に友達来たみたいだから、出るね」 「出るって、いまから?」 「うん、荷物とかはまた取りに来るから」 「待ってよ」 「待ってたよ? でもそっちが嘘ついたんじゃん」 彼女は背中を向けて、カバンを手に取った_ 「俺、ラインブロックしてるよ?」 「でも、ブロックリストには残ってるやろ」 「それは、わからない……」 俺は、下を向いた_ 「でも、俺の気持ちが戻ることは絶対にない」 顔を上げると、扉の開く音がした_ 「私、話しかけずにちゃんと待ってたのに」 彼女はそう言い残して、部屋を出て行った_ 俺は床に手をついて、顔を伏せた_ ベランダから車のエンジン音がして、振り返ると、スタバの紙袋が倒れていた_ 中には、バスクチーズケーキが入っていた_ 記念日でもないのに俺は、ケーキを買った_ 申し訳ないと思ってたくせに、俺は彼女に嘘をついた_ 最初から、元カノのことなんかほっとけばよかった_ 電車、乗らなきゃよかった_ 元カノと出会う前に、彼女と出逢いたかった_ リビングには、コットンが落ちていた_ 手を伸ばすと、ゴミ箱のそばにレシートが落ちていた_ 『STARBUCKS』 『バスクチーズケーキ』 『2点』 俺はキッチンに向かった_ 冷蔵庫を開けると、チーズの匂いがした_ 彼女は最初から、怒るつもりじゃなかった_ レシートには『21:35』と書かれていた_ 電車で俺を見つけたあとに、彼女はスタバに寄っていた_ 俺が帰ってきたとき、ソファの上にはチェックのワンピースが用意されていた_ 彼女は、ネイルを落としていた_ 『おかえり、なんか食べてきた?』 あのとき5秒、彼女は待ってくれた_ それなのに俺は、 『先輩と飲んでた』 嘘をついた_ テーブルの上には、映画の前売り券が残されていた_ 手に取ると、足の指になにかが触れた_ テーブルの下を覗くと、ちいさな粒が光って見えた_ それは、この部屋で初めて塗ってあげた、レモンイエローのマニキュアだった_                                  

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1:01
650,986 650,986回再生 投稿から36日17時間58分後(881時間)(2026.06.26 12:13時点で取得) 30日経過・確定

彼氏に「友達と飲んでた」って言ったら「元カレでしょ」って言われた_ 真っ暗なリビングで彼氏は、テレビを観ていた_ 「とりあえず、座って話そうか」 彼氏はソファから腰を上げて、となりを空けた_ 私はカバンを床に置いて、ゆっくりと顔を上げた_ 「はい、こっち来て」 彼氏はソファを、軽く2回叩いた_ 私は、テレビの灯りだけを頼りにソファに座った_ 流れていた映画は、一緒に観ようって約束してたやつだった_ エンドロールが始まって、曲が流れた_ 「まずさ、帰って来るの遅すぎね」 「ごめん……」 私は、床を見つめた_ 「あと、お酒飲むの今日から禁止ね」 「え……」 「あ、別れるとでも思った? 俺は逃がさないよ」 彼氏の手が、私の服を掴んだ_ 「でも、私……」 「うん、元カレと会ってたんだよね?」 「うん……」 「俺さ、明日から1ヶ月、有休使って仕事休むことにしたから」 「え?」 「こうなった以上、ずっとそばにいないと気が済まないからさ」 彼氏は笑いながら、私の顔を覗き込んだ_ 「明日から、毎日一緒だよ」 彼氏は目を細めて、私の頭を撫でた_ 私は両手で顔を塞いだ_ 肩が震えて、視界がぼやけた_ 「じゃあ、とりあえず荷物まとめようか」 彼氏は立ち上がって、リビングの電気をつけた_ 「え……」 まぶたを擦ると、彼氏はクローゼットを開けていた_ 「あ、下着とかは自分でやってね?」 彼氏はボストンバックを取り出して、服を詰めた_ 「パジャマとかはさ、あっちが用意してくれるよね?」 彼氏と目が合って、私は首を横に振った_ 「ねえ……」 顔を伏せた_ 「どこまで知ってるの……」 声が、震えた_   元カレと今日、駅のホームで偶然会った_ 『なんか痩せた?』 元カレはすぐに、私の変化に気づいた_ 『私、病気だから』 そこで私は、抱えていた悩みを打ち明けた_ 『え、そのことは彼氏には言ってないの?』 『うん、そのまま別れようと思ってる……』 『とりあえず、乗って話そうか』 電車に乗り込むと、元カレは手すりを掴んで、私だけが椅子に座った_ 『病院は?』 『逃げてる……』 スマホには、病院からの着信履歴が並んでいた_ 『まあ、怖いよね』 『うん……』 電車が停まって、元カレは扉の前に立った_ 『でもまあ、元気でいてよ』 元カレはそう言って、私に手を振った_ 『今日話したことは、誰にも言わないから』 そう言い残して、電車を降りて行った_ それなのに、 「元カレから、俺のインスタにDMが来てね」 彼氏は、天井を見上げながら言った_ 「俺、ぜんぶ聞いたよ」 彼氏は立ち上がって、私の目の前に立った_ 「ステージ3の乳がん」 しゃがみ込んで、私のほほに触れた_ 「明日さ、病院行こ?」 彼氏と目が合って、私は彼氏の服を掴んだ_ 強く引っ張って、彼氏を抱き寄せた_ 「だいじょぶ、俺がついてる」 頭を撫でられて、私は声を出して泣いた_   そのあと彼氏と、荷物をまとめた_ 「ぬいぐるみも入れとく?」 「うん、夜怖いから」 「だいじょぶだよ、俺が毎朝おはようって、お見舞い行くからさ」 彼氏は笑って、私の頭を撫でた_ 「うん……」 入院は怖かったけど、彼氏となら頑張れる気がした_ 「今日さ、一緒にお風呂入る?」 「え、やだ」 最初は断ったけど、そのあと浴室に向かうと、シャワーの音に混じって泣き声が聞こえた_ 「やっぱり、一緒入る……」 私は電気を消して、扉を開けた_ 「え、待って」 彼氏と初めて、お風呂に入った_ お風呂上がりは、彼氏にドライヤーをしてあげた_ 「暗かったから、目に泡が入った」 「もう、下向かないでよ」 私がヘアオイルを付けてあげると、彼氏は犬みたいに首を振った_ 「明日も付けたい」 「わかったから、じっとしてて」 そのあと彼氏と、アイスを食べながら映画を観た_ 「ねえ、なんで先に観たの?」 「だって、元カレにはすぐに言えたんだって、ちょっとだけ嫌になったから」 彼氏はひとくちだけ、私の抹茶アイスを奪った_ 「ねえ、バニラが付いた」 「うん、美味しいね」 映画よりも、ふたりともアイスに夢中だった_ 彼氏は、エンドロールの途中で寝オチした_ 私は彼氏を枕にして、ソファに横になった_ マイリストにはまだ、約束した映画がたくさん残っていた_ 私は、彼氏の手を握った_ テーブルの上のスマホが光った_ 顔を近づけると、元カレからラインが来ていた_ 『幸せになりなよ』 私は『ありがとう』と、スタンプを送った_ 深夜3時だったのに、既読が付いて、それ以上ふたりとも、なにも送らなかった_ 私はスマホを伏せて、彼氏を抱きしめた_ このままずっと、こうしていたかった_ それでも、朝は来た_   「今日から夏休みかあ」 彼氏はベランダで、大きく両手を広げた_ 「ねえ、ほんとによかったの」 私は、彼氏の肩に頭を預けた_ 「うん、上司には怒られたけど」 「ええ」 「でもさ、学生に戻ったみたいで気持ちがいいね」 「私はまだ寝ていたかったけど」 「じゃあ、2度寝しよっか」 「え、いいの?」 「うん、30分だけね」 それから彼氏と、昼過ぎまでベッドでゴロゴロした_ 「忘れ物はない?」 「うん、だいじょぶ」 私は合鍵を手に、玄関で靴紐を結んだ_ 車の中で私は、彼氏と歌を歌った_ 途中コンビニで、彼氏が映ルンですを買ってくれた_ 私は運転する彼氏を、最初の1枚目にした_ 私が肩を揺らすと、彼氏は笑った_ 残り26枚_ いまからふたりで、旅行にでも行くみたいだった_                                  

22,203 いいね 22,203投稿から36日17時間58分後
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(2026.06.26 12:13時点で取得)
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2026.06.26 12:13 時点 30日経過・確定 投稿から36日17時間58分後(881時間)
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196,020 196,020回再生 投稿から39日15時間15分後(951時間)(2026.06.26 12:13時点で取得) 30日経過・確定

閉園30分前、彼氏とユニバに入った_ 別れ話のあとだったけど、彼氏は私の頭にカチューシャを付けてくれた_ 「分け目どこ?」 彼氏は笑いながら、私の前髪を整えてくれた_ でもこの人、今朝ホテルで私のスマホを見てた_ 「自分でやる」 私は下を向いて、前髪を押さえた_ 「めっちゃ似合うね」 彼氏は180センチあるから、いつも私の顔を覗き込んでくれる_ でもこの人、私が寝てるときにスマホ見てた_ 「コナンのやつ、まだ乗れるかな?」 彼氏もカチューシャを付けて、歩き出した_ みんな出口に向かっていて、私は避けながら彼氏を追いかけた_ 夜のユニバは、どこを見ても眩しかった_ 「ほら早く、置いてくよ?」 振り返る彼氏は、もういまは元カレ_ みんな知らないだろうけど、私たちはさっき別れたばかり_ 「あ、見て見て、オニオン」 それなのに彼氏は、子どもみたいにはしゃいでいた_ 「ミニオンね」 私は、すこしだけ笑った_ でも、スマホは見られた_ 「写真撮って?」 彼氏が、ミニオンと肩を組んでいた_ 「はあ……」 私は彼氏にスマホを向けた_ 「また消さないといけないじゃん……」 さっき、この人とアルバムの写真を消したばかり_ 「あのっ」後ろから声を掛けられて、 「はい?」振り返ると、 「撮りますよ?」カップルが手を差し出していた_ 「あ……」私は断るわけにもいかず、 「ありがとうございます……」 ミニオンのとなりに立った_ 「撮りますねえ」 カップルが、私たちにスマホを向けた_ 「はい、チーズ」 レンズが光って、私は目を逸らした_ そのあとお土産を選んでいたら、彼氏が「さっきの写真エアドロして?」と、私の肩に触れた_ 私はお土産をカゴに入れながら「編集して送るから、またあとで」って、レジに向かった_ 財布を開くと、彼氏はまだお土産を選んでいた_ カゴには、誰に渡すかわからないぬいぐるみが入っていた_ 「あっという間だったね」 会計を済ませた彼氏と、出口に向かった_ 「うん、一瞬だった」 私はカチューシャを外して、袋に入れた_ 外に出ると、地球儀の前でみんな写真を撮っていた_ 「あ、荷物取ってくるね」 彼氏はそう言って、コインロッカーに向かった_ 私が着いて行こうとすると、彼氏は振り返って「そこで待ってて」と、頭の上のカチューシャを揺らした_ 私は、地球儀を見つめた_ さっきと違って、紫色に光っていたから、なんか泣きそうになった_ さっきここで、彼氏とこのまま帰るか、最後にユニバ行くか話し合っていたから、綺麗とは思えなかった_ たぶんつぎ来るときも、写真すら撮る気にならないんだろうなって、遠くのカップルを見つめた_ 「行こっか」 彼氏がキャリーケースを引きながら、私の前を歩き出した_ 「ねえ、いつまで付けてるの?」 私は駅のホームで、後ろから彼氏を見上げた_ 彼氏は前を向いたまま、カチューシャを揺らした_ 「さすがに飛行機では外してよ?」 私は、彼氏の背中にスマホを当てた_ 「ブザーなるかな?」 彼氏は笑いながら、背筋を伸ばした_ 「席変えてもらおっかな」 私はスマホを見つめた_ さっき撮ったミニオンとの写真は、ふたりとも笑顔だった_ でもふたりとも視線が真ん中を向いていて、あいだのミニオンだけがこっちを見ていた_ 「疲れたね」 前に立っていた彼氏が、笑いながら言った_ 「うん、疲れた」 私はスマホを閉じて、顔を伏せた_ 下げたおでこが、彼氏の背中に当たった_ 彼氏は背中を丸めて「もうすこしだよ」って、笑った_ 私はそのまま、彼氏の背中に頭を預けた_ でも私、この人にスマホを見られた_ もうすぐ記念日だったのに、 スマホを見られた_ お揃いのキーホルダー欲しかったのに、 スマホを見られた_ 「電車来たよ」 顔を上げると、彼氏と目が合った_ 「うん」 私が目を擦ると、彼氏も目を擦った_ そのあと、 電車の中でも、 空港のロビーでも、 飛行機が離陸するときも、 私は何度も、彼氏の肩に頭をぶつけた_ 「着いたら起こすよ」 どうしても私は、この人のとなりにいると眠くなってしまう_ 私が寝ているあいだ、この人はなにを考えていたのか、わからなかった_ でも、今朝ホテルで目を覚ましたとき、この人は泣きながらスマホを見ていた_ 空港のロビーで私は、彼に手を振った_ 彼もキャリーケースから手を離して、ちいさく手を振った_ さすがに、カチューシャはもう外していた_ でも、背中を向けた彼の頭には、寝癖ができていた_ 「まだ付いてるし」 一緒になって頭を寄せていたのか知らないけれど、左にだけ寝癖ができていた_ 私はゆっくりと背中を向けて、帰りはひとりで、別の家に向かって歩き出した_                                  

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(2026.06.26 12:13時点で取得)
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2026.06.26 12:13 時点 30日経過・確定 投稿から39日15時間15分後(951時間)
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「この顔に見覚えありませんか?」警察官から1枚の写真を見せられた_ 「ちょっと待ってください」 私は玄関の扉を閉めて、チェーンを外した_ 呼吸を整えて、ドアノブを握った_ もう1度開けて、顔を出した_ 「元彼を、久しぶりに見ました」 私は、警察官の目を見て言った_ 「そうですか」 警察官は、奥にいた女性の警察官と目を合わせた_ 「実はですね、とある事件にこの方が関与してる疑いがありまして」 もう1度写真を向けられて、私は顔を近づけた_ 「連絡先とか残ってます?」 「いいえ、消しました」 「最後にお会いしたのはいつですか?」 「4ヶ月前です」 「お答えできたらでいいのですが、そのとき交際中でしたか?」 「いいえ」 私は、警察官を見つめた_ 「偶然お会いしたとか?」 「はい」 汗が出てきて、私はおでこを押さえた_ 「どこでお会いしたか、お聞きしてもいいですか?」 「駅のホームです」 「すぐそこの最寄りですか?」 「はい、電車に乗るところを見かけました」 「声は掛けましたか?」 「いいえ」 私は、警察官を見上げた_ 「女の人といたので、話しかけませんでした」 「そうですか」 警察官は、すこしだけ眉間にしわを寄せた_ 「では、もう1度お聞きします」 警察官の指が、写真の中の男を指差した_ 「この方で、間違いないですか?」 私は写真を見つめて、首を振った_ 「ごめんなさい、その人ではないです」 頭を下げて、強く目を閉じた_ 「わかりました」 顔を上げると、警察官は背中を向けていた_ 奥で待っていた警察官と頷いて、私に軽く頭を下げた_ 「ご協力ありがとうございます」 歩き出す警察官を見つめながら、私は扉を閉めた_ そのまましゃがみ込んで、顔を塞いだ_ 私は3年ぶりに、元彼の名前を口にした_ さっき見た顔は、間違いなく元彼だった_ 遠距離を理由に、別れてしまった元彼_ 『もし25歳までに独りだったら、結婚しよっか』 そんなことを言っていたのに、元彼は4ヶ月前、女の人と歩いていた_ つぎに進もうと決めた私は、元彼の連絡先を消した_ 「なんでいまさら……」 私は、玄関の扉を見つめた_ 「すいません、ひとつだけお伝えしたいことがあって」 外から声がして、扉をノックされた_ 私は立ち上がって、ドアノブに手をかけた_ 「すみません何度も」 警察官は帽子に手を当てて、軽く頭を下げた_ 「実はですね、さっき言ってた駅で一緒にいた女性、あれ妹だと思います」 「はい……」 私は、首の後ろに手を当てた_ 「もし他になにかあれば、こちらから連絡をします」 渡された紙には、電話番号が書いてあった_ 「では、また」 私が顔を上げると、警察官は歩いて行った_ 私は裸足のまま、廊下に飛び出した_ 「あのっ」 声を掛けると、警察官は立ち止まった_ 「ほんとに、妹だったんでしょうか」 私は、警察官の背中を見つめた_ 「はい、確かな情報です」 警察官は振り返って、帽子を外した_ 「本人がそう言ってるので」 警察官はそう言って、顔を上げた_ 「やっぱり……」 私は、帽子を取った元彼を見つめた_ 「やっぱり、警察官になれたんだね」 風が吹いて、元彼は遠くを見つめた_ 「職務中ですので、プライベートなことは」 そう言って元彼は、私の手もとを指差した_ 「聞きたいことがあれば、そちらに連絡をお願いします」 紙には、喫茶店の名前も書いてあった_ 私は紙を握りしめて、元彼を見つめた_ 「もうすぐ、誕生日だね」 私が目を細めると、元彼は下を向いた_ 「毎年、ここでケーキ食べたね」 私が近づくと、元彼は帽子を被った_ 背中を向けて、横顔を見せた_ 「今日は、20時終業予定です」 そう言って元彼は、階段を降りて行った_ 私は、廊下から身を乗り出した_ 駐車場を走る元彼の背中は、前よりもずっと大きく見えた_ 私は部屋に戻って、急いでクローゼットを開けた_ 服を身体に当てながら、なにから話そうか考えた_ それにしても制服似合ってたな、とか_ 職務中なのに連絡先渡すのはどうなの、とか_ 私もちゃんと教員になれたよ、とか_ あとは、本当に妹だったのか詳しく聞き取りしないと、とか_ でもまずは、 「私、まだ好きだから」 それをいちばんに、伝えることにした_                                  

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(2026.06.13 16:16時点で取得)
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友達と心霊スポットに行ったら、トンネルの中に元彼がいた_ 友達は逃げ出して、私は元彼とふたりきりになった_ 「ねえ、なにしてんの?」 私は元彼の足もとを見つめた_ 「暑くなってきたし、ここ涼しいんだよ」 元彼は、靴を履いていなかった_ 「怖いって」 私は、半年ぶりに元彼と目を合わせた_ 「よく俺に気づいたね?」 「気づくよ、ずっと探してたんだから」 「そっか、突然いなくなったもんね」 元彼は、私があげたTシャツを着ていた_ 「ねえ、なんで裸足?」 「ああ、やっぱ気になる?」 元彼は足を上げて笑った_ 「ちょっとさ、ほんとに怖いんだけど」 「あ、もしかして霊だと思ってる?」 「ねえ、まじでめんどくさい」 私は、元彼に手を伸ばした_ 元彼はすぐに後ろに下がった_ 「ちょっと、確認させてよ?」 私は服を掴もうとした_ 「やめて?」 「なんで?」 「俺たちもう他人じゃん、触らないでよ」 「は? 勝手にいなくなったのはそっちじゃん」 私は、元彼の服を指差した_ 「俺のこと、なんにも聞いてないの?」 「は?」 「ニュース見てない?」 「ニュース?」 「うん、半年前にあった事故」 「なにそれ」 私は、髪を耳にかけた_ 「そっか……」元彼は下を向いて、前髪を押さえた_ 「それがなんなの……」 「実は俺、車で事故を起こした」 「は?」 「歩いてた人も巻き込んで、お腹には赤ちゃんもいた」 「待ってよ」私は首を振った_ 「なんで言わなかったの」 「関わってほしくなかった」 「おかしいって」 「おかしくない、俺は人の人生を崩したんだよ、幸せになっていいわけがない」 「待ってよ……」私は、おてごを押さえた_ 汗が止まらなくて、呼吸がうまくできなかった_ 「だからもう、連絡して来ないでほしい」 元彼は、背中を向けた_ 「俺のことは忘れて、早く友達のところに戻って」 元彼は歩き出した_ 私は手を伸ばした_ 「ねえ、生きてるよね?」 トンネルに、声が響いた_ 元彼は立ち止まって、ゆっくりと振り返った_ 「どっちでもいいよ」 蛍光灯の灯りが、元彼の顔を照らした_ すぐにまた歩き出して、私は追いかけた_ 「来ないで」元彼は、トンネルの外に出た_ 「お願い」私は叫んだ_ 元彼は、私の誕生日にいなくなった_ あの日、待ち合わせの時間になっても来ないから、私は大学の友達に連絡をした_ 『どこにいるか知らない?』 『え、指輪を取りに行くって言ってたよ?』 そのことを、私はどうしても聞いておきたかった_ 「ねえ、あの日、指輪を取りに行ったんでしょ?」 私は、トンネルの外に出た_ 元彼はガードレールに手をついて、下を向いていた_ 「私が遅いって急がせたから、事故を起こしたんじゃないの?」 元彼は顔を上げて、ゆっくりと歩き出した_ 「ねえ」私は走り出した_ 息が苦しくて、足がもつれた_ アスファルトに倒れ込んで、ほほが地面についた_ 「お願い……」視界がぼやけて、口の中に砂が入った_ 「私のこと、嫌いになったの……」 地面に手をついて、顔を上げた_ 視線の先に、元彼の足があった_ 「嫌いになれないよ」 まぶたを擦ると、元彼と目が合った_ 私は、ゆっくりと手を伸ばした_ 伸ばした薬指に、元彼の中指が触れた_ 触れた瞬間、元彼の胸に抱き寄せられた_ 一気に涙が溢れて、元彼の肌の匂いがした_ 「生きてるじゃん……」 私は強く、元彼を抱き締めた_ 元彼は地面にひざをついて、首を振った_ 「俺は……」 私はすぐに元彼の頭を抱きしめた_ 「もういい、もういいから……」 鼻先をおでこに当てた_ 「俺みたいなやつ……」 元彼は涙を流した_ 「いいから、黙って」 私は、元彼の頭を押さえた_ 「いなくならなくていいって」 背中を掴むと、元彼が声を出して泣いた_ 空が明るくて、元彼のおでこにくちびるを当てた_   「ごめんね……」 そのあとふたりで、朝日を眺めた_ 「もういいって」 私は笑いながら、元彼の肩に腕を回した_ 「ねえ、おんぶしてあげる」 私は元彼の頭を撫でた_ 「いいよ、自分で歩く」元彼は、足の指を動かした_ 「じゃあ、あの電柱まで」 私が遠くを指差すと、元彼が顔を上げた_ 「ね? 私にも背負わせて?」 朝日が差し込んで、元彼の口角が上がった_ 「じゃあ……」元彼は、遠くを見つめた_ 「家までよろしく……」 「はい?」 私が振り返ると、元彼はまぶたを擦った_ 「わかったわかった、家までね」 私は元彼の肩に触れた_ 「その代わり、恥ずかしくなってもおろさないからね?」 私が顔を覗き込むと、元彼は目を細めた_ 「うん、ありがと……」 見上げた笑顔は眩しくて、 「よかったよ、ほんと……」 私は、彼の肩におでこを乗せた_                                  

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