深夜11時。コンビニのバックヤード。 木下茂は更衣室でエプロンを結びながら鏡の中の自分を見た。 49歳。コンビニ夜勤アルバイト。 茂(心の声):(……情けないな) 自分でも思う。 でも思うだけでどうにもならない。 深呼吸をしてフロアへ出た。 茂:「新人の木下です。今日からお願いします」 カウンターの向こうで振り向いたのは明らかに若い女性だった。 なな:「川島です。お願いします」 笑顔はなかった。 なな(心の声):(うわっ、おっさんと二人か。いやだな) 顔には出さなかったが、目には出ていた。 茂(心の声):(……そうだよな。そうなるよな) Scene 2|2週間後 それから2週間。 二人のシフトは変わらず続いた。 なな:「賞味期限切れ、バックに持っていってください」 茂:「わかりました」 なな:「揚げ物、補充お願いします」 茂:「はい」 業務の会話だけだ。 それ以外は一切ない。 茂(心の声):(まあ……これが普通だよな) 茂は元々、人と話すのが得意ではない。 根暗という自覚もある。 だから別に構わなかった。 ただ夜中の3時に誰とも話さずレジに立っているのは少し寂しかった。 それだけだ。 Scene 3|その日 2週間と3日目の夜。 今日もいつものシフト。茂となな二人だけ。 茂:「おはようございます」 なな:「おはようございます」 それだけ言って二人はそれぞれの持ち場へ向かった。 Scene 4|異変 深夜1時過ぎ。店内は静かだった。 なながドリンクの補充のため茂の後ろを通り抜けようとした。 その瞬間。 なな(心の声):(心の声)(えっ!うそ!?) 足が止まった。 ななは何かを感じていた。 顔が熱くなるのがわかった。 心臓が不自然に跳ねた。 なな(心の声):(いやいや、絶対ありえない。だって49歳でバイトしてるおっさんだよ。普通に無理だって) ななは自分に言い聞かせ、ドリンクコーナーへと向かった。 だがドキドキが止まらなかった。 気づくと目が茂を追っていた。 茂が揚げ物コーナーへ行けば視線が追う。 茂がレジに戻ればまた追う。 なな(心の声):(なんで私……) 自分でも意味がわからなかった。 Scene 5|バックヤード 深夜2時。在庫確認のため二人はバックヤードへ入った。 狭い空間。 蛍光灯の白い光。 段ボールが積み上がった棚。 茂がリストを確認している。 なながその横で商品の数を数えている。 ただそれだけのはずだった。 しかしバックヤードに入った瞬間、密閉された空間の中で先ほど感じた何かを、ななはより強く感じた。 なな(心の声):(っ……) 心拍数が、急激に上がる。 体が内側から熱くなっていく。 なな(心の声):(だめだ、我慢できない) すると、ななは茂の背中に向かって抱きついていた。 茂:「えっ!」 茂は完全に固まった。 手に持っていたクリップボードが床に落ちた。 パタン。 なな:「いきなりごめんなさい」 沈黙が流れた。 茂(心の声):(え、なに、これ、現実?) 茂(心の声):(バックヤードですよね、ここ) なながゆっくりと体重をかけてきた。 茂はバランスを崩し段ボールの山を巻き込みながらその場に崩れ落ちた。 ドサッ、バサバサバサ。 茂:「っわ!」 段ボールが四方に散らばる中、ななはそのまま茂の上に乗り体を密着させた。 そして首元へと顔を近づけてきた。 なな:「ハァ……ハァ……」 息遣いが荒くなっている。 茂(心の声):(段ボール散らかってるのに全然気にしてない) ななはそのまま茂の首元に唇を当てた。 軽く甘噛みしてくる。 茂:「急にどうしたんですか!?」 なな:「……私にもわからない」 なな:「なんか急に良い匂いがして……それから私が私じゃないみたいになって……」 茂:「匂い!?」 その言葉を聞いた瞬間、茂の頭に電流が走った。 茂(心の声):(まさか!!!) 家を出る前に塗ったもの。 Amazonで届いていた練り香水「ステラホワイト」 茂:(心の声)(あれのせいか!?) ななはまた深く匂いを吸い込んだ。 なな:「……もっと嗅がせて」 茂(心の声):(もっと、と言われても) Scene 6|バックヤードの中で 散らばった段ボールに囲まれたまま、しばらくの時間が流れた。 蛍光灯が二人を白く照らしていた。 フロアの方から自動ドアが開く音がした。 深夜のお客さんだ。 茂:「……レジ、行かないと」 なな:「……うん」 なながゆっくりと体を起こした。 乱れた髪を手で整えエプロンを直す。 茂も立ち上がり散らばった段ボールを素早く拾い集めた。 なな:「……後で片付けます」 茂:「いえ、私がやります」 なな:「……」 ななは少し俯いたまま先にバックヤードを出た。 茂は一人残り段ボールを積み直しながら天井を見上げた。 茂(心の声):(……49年生きてきて、こんなことが起きるとは) 静かに笑ってフロアへと戻った。 Scene 7|夜明け前 朝6時。シフト交代の時間が近づいてきた。 二人は黙って閉め作業をこなしていた。 気まずいわけではない。 ただ何を言えばいいかお互いわからなかった。 次のシフトの担当者が入ってきた。 なな:「お疲れ様でした」 茂:「お疲れ様でした」 二人は更衣室で着替えコンビニを出た。 朝の空気が冷たかった。 駐車場で二人の足が自然に止まった。 なな:「……あの」 茂:「はい」 なな:「今日のこと忘れてください」 茂:「……わかりました」 なな:「……」 茂:「……」 なな:「でも明日のシフトも一緒ですよね」 茂:「そうですね」 なな:「……その香水また付けてきていいですよ」 そう言って、ななは自転車にまたがり走り去っていった。 茂はその背中を見送り、自宅へ帰っていった Epilogue|真実 朝7時。実家の自分の部屋。 茂は静かに部屋に入りベッドに腰を下ろした。 テーブルの上にはステラホワイトが置いてある それを眺めながら今夜のことを頭の中で再生する。 バックヤード。 散らばった段ボール。 ななの荒い息遣い。 そして── 「その香水、また付けてきていいですよ」 茂は静かに笑った。 49歳。コンビニ夜勤アルバイト。実家暮らし。 情けないと思っていた。 でも今日だけは少しだけ、そう思わなかった。 #漫画 #マンガ #モテおじ #モテるおじさん #pr
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